アクション映画にはひたすら格好良く撮ることを追求した作品が存在する。それらは作り手の美学が込められた一種の芸術と言ってもいい。そんな作品の一つが「ウォンテッド」(2008年、ティムール・ベクマンベトフ監督、アンジェリーナ・ジョリー、ジェームズ・マカヴォイら出演)だ。

 

 平凡な青年ウェスリーは謎の美女フォックスと出会った直後、何者かに襲われる。フォックスに守られて修羅場を切り抜けると、秘密の暗殺組織のアジトへ。そこで組織のすご腕暗殺者だったという父が敵に殺されたことを知らされるとともに、自身の暗殺者としての素質を見いだされる。ウェスリーは父譲りの潜在能力を覚醒させるためフォックスの指導で特訓を始めるが、その背後には危険な陰謀が隠されていた。

 原作は大人向け長編ストーリーを描く単行本仕様のアメリカン・コミックであるグラフィックノベルの同名作品。原作と同じ構図で撮影したシーンの数々は誇張し過ぎなほどにけれん味にあふれ、ポーズや立ち回りの一つ一つがとにかく格好良いのである。

 圧巻なのはアクションシーンのアクロバティックな立ち回りだ。弾丸に弾丸を当てて弾道を曲げたり、高速でスピンする車に乗り込んだりと、CGとスローモーションを巧みに使って原作の一コマをそのまま再現しており、見たことのない革新的なアクションシーンが次から次へと登場する。

 

 特に映画公開時に注目されたのが、腕と手首を振るだけで弾丸の弾道を曲げる曲撃ちアクション。一見、「できそう」な感じもする技術だが、米国のテレビ番組で検証したところ、銃から放たれた弾丸が曲がるのは物理的に不可能だという。よく考えれば当たり前なのだが、そう思わせないところがこの作品のすごさ。リアリティーとファンタジーの境界線を曖昧にさせるアクションは一見の価値ありだ。

 CGを駆使したビジュアルとアクション演出だけでなく、主人公以上に際立つアンジーの強烈な存在感も、ありえないシーンの数々にリアリティーを与えている。強い女性を演じさせたらハリウッド屈指のアンジーが醸し出す独特の雰囲気とたたずまいはシーンにいるだけで説得力が増す。主人公を見つめる「女王様」然としたドSな視線に、見る者は「文句はありません」とひれ伏すのみ。

 個人的に本作のフォックス役はアンジーがこれまで出演したどの作品の役柄よりもはまり役だと言いたい。本作は大ヒットとなって続編の話もあったものの、アンジーは「前作と同じ役に興味が湧かない」と断ったために企画は立ち消えたという。どこまでもクールなアンジー、格好良過ぎです。(記者A)

 【記者A】映像ソフト専門誌編集者、フリーの映画ライターを経て徳島新聞記者を務める。映画関連記事の編集や執筆、インタビュー、ロケ現場の取材などに長年携わり、1年間で365本鑑賞した年もあるなど、映画をこよなく愛する。