障害への理解を深めてもらおうと講演を重ねる北島さん=つるぎ町役場

 高次脳機能障害や半盲などの障害がある北島麻衣子さん(36)=徳島県つるぎ町半田、町臨時職員=が、10年前に抱えた障害と向き合いながら社会復帰した経験を、学校などに出向いて語っている。外見は以前と変わらない。窓口で当たり前のように書類を渡されても、漢字をうまく書けない。スーパーで障害者用駐車場に車を止めると、じろじろ見られる。そんな苦しみを多くの人に理解してほしいと願う。

 県内の会社で事務職として働き、第2子を妊娠中だった26歳の時、妊婦健診を終えて午後から職場へ行こうと自宅で準備をしていたところ、ハンマーで殴られるような頭痛に襲われた。

 救急搬送され、脳内出血の手術を受けた。生まれつき脳の血管に異常があったのが原因だった。意識が戻った後は家族の名前も思い出せず、記憶力が低下する高次脳機能障害、視野が狭まる半盲の後遺症を抱えた。

 右側の視野が狭くなり、家族に連れられて病室に来た当時小学生の長女が視界に入らない。自分がどこにいるか分からず、1人でトイレに行けない。当たり前にしていたことができない自分に絶望した。

 箸の持ち方、文字の書き方に始まり、洗濯物の畳み方、買い物の仕方など日常生活に戻るリハビリを重ねた。「体は大人でも、頭の中は小学生に戻った気分。悔しい気持ちをどこにぶつけたらいいのか分からなかった」

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 約3カ月後に退院した。同時に複数のことができず、食事の準備に2時間かかる。長女が持って帰る小学校からの手紙が理解できない。第2子の長男を出産した後は、子どもが動いて体の向きが変わると服の着せ方が分からなくなる。壁にぶつかりながらの子育てだったが、家族のサポートを得て乗り切った。

 育休を経て復職した。だが電話してきた相手の早口が理解できず、以前のように働けない。さらに、てんかんを発症。回復しかけていた字を書く能力や記憶力も振り出しに戻った。退職し、数年間は家に引きこもった。

 やがて働く気になったものの、障害者の就職先は限られる。特に県西部は求人が少なかった。「自分自身、障害に無知だった」

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 2016年からつるぎ町役場に勤め、人権啓発を担当している。町職員向けの研修で自身の経験を話したのをきっかけに、病院や学校に出向いて講演するようになった。これまでに20回ほど行い、2月5日には三好市の池田支援学校に出向いた。

 働く気持ちのある人が障害を理由に諦めなくてもいい仕組みづくりが目標だ。一緒に農作業をしながら就労できるまでサポートする農園の開設などを想定している。「障害の有無にかかわらず、補い合いながら一緒に働ける社会にしたい。社会復帰が一番のリハビリになる。当事者だからこそ、社会復帰に向けた後押しをしたい」。そんな思いで、共生社会の実現を目指す。

 高次脳機能障害 脳外傷や脳卒中などで脳がダメージを受け、記憶力や注意力が低下する障害。自分で計画を立てて物事を進めることができなくなる人もいる。県によると、高次脳機能障害による精神保健福祉手帳の所持者は2019年度末で県内に144人。