阿南市椿泊町の町並み。海と山に挟まれた場所に民家がひしめく

 想像以上に狭い―。思わず車を降りて周囲を確認した。道幅は2~2・5メートル。車1台がやっと通れるほどの一本道が町並みの奥へと続く。道の両側には2階建ての民家が並び、実際の道幅以上に狭く感じる。紀伊水道に突き出す半島に位置し、海と山に挟まれた徳島県阿南市椿泊町を訪れた。

 自らの運転でこれ以上進むのは危険と判断し、町自主防災会会長で漁師の橋本直美さん(71)に迎えを頼んだ。「まだ町に入ったばかり。運転が難しいのはこれから」。直角の曲がり道や狭いS字カーブを慣れたハンドルさばきで進む橋本さん。所々で車を止め、椿泊小学校2階の体育館、さらに高い場所にあるグラウンド、山沿いの津波避難階段、高台にある神社などの避難場所を一緒に歩いた。

 高台に立つと、瓦ぶきの古い家がひしめく町並みがよく分かった。急な坂道や階段、細い路地、石垣も目につく。「地震の揺れで家が倒れて道をふさげば、避難先にたどり着けないのではないか」。そんな考えが頭をよぎり、耐震は万全かと住民に聞いてみた。

 「瓦は何年かに1回点検しているけど、耐震化はしていない。お金がかかるし年も年。大体みんなそうちゃうん」。答えてくれたのは西山武子さん(75)。「子どもは町外で暮らし、住むのは自分の代だけ。年金も少なく、全額無料でないとできん」

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 昔ながらの漁師町では過疎と高齢化が進む。橋本さんは「年寄りの多くは昔は漁師で、年金は国民年金。もらえる額は少ないし、1人暮らしも増えた。金銭的な問題は大きい」と指摘する。「耐震化は進まないだろう。家が壊れるより津波から逃げるという意識が強い」とも語った。

 調べてみると、県内市町村は木造住宅の耐震改修や耐震シェルターの設置に補助制度を設けており、阿南市も例外ではない。担当者は「津波避難計画があっても家屋の下敷きになれば逃げられない。避難路の安全を確保する点でも制度をもっと活用してほしい」と悩んでいた。家屋の耐震化は圧死を防ぐためだけでなく、津波からの避難をスムーズにする狙いも大きい。

 県が昨年、県内12町村で行った実態調査での耐震化率は82・1%。高齢者世帯では74・0%と全体の平均を下回った。耐震改修をしない理由では「高齢のため・後継者がいない」が最も多く、「関心がない」「経済的理由」と続いた。「家屋が倒れてもいい」「どうせ津波で流される」といった声も寄せられた。

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 調査地域は限定的であるにしても、これらは高齢者の本音なのだろうか。

 「誰でも命は惜しい。本当は心配なのに、きちんと答えなかった人もいるかもしれない」。そう分析するのは、県の耐震改修促進計画検討委の委員で、県自主防災組織連絡会の小谷憲市会長(58)=北島町。「安心して頼める業者、信じて話せる相談相手が誰か分かれば話は進む。目線を落とすことが必要だ」と言う。

 耐震化を普及させる鍵は身近な人の声掛けにあると説く。

 「取っ掛かりは『耐震化』という行政的な硬い言葉でなく、『命を守ろうよ』のような楽に入れる言葉がいい」「それを心に引っ掛けられるのは、日頃から付き合いのある民生委員や介護職、家族だと思う」

 助けられたはずの肉親や友人が命を落とすことを後悔しない人はいない。椿泊町で出会った高齢者も、家族から「命を守らんで」と言われたら、返す言葉は異なるだろうか。