岡本光雄氏

 岩手日報は、震災忌に合わせて特別号外を発行し、「岩手の今」を手渡しで伝えてきた。昨年出した12ページの号外には、公募した釜石市民の言葉がこう刻まれている。<未来のだれかが同じ思いをしないように いま、あなたにできること。避難を続けること 備えること 語り継ぐこと>

 生かしていかなければならない教訓である。号外には、復興支援への感謝の意と、記憶の風化にあらがうとの思いがこもる。

 趣旨に賛同し、年々号外配布に参加する人は増え、おととしメディア関係者に交じって本紙東京支社長も加わった。川村公司常務取締役編集局長(55)は心強さを感じてきたという。

 特別号外は震災翌年の3・11に初めて発行、同日の紙面で、犠牲者・行方不明者を追悼する企画「忘れない」を始めた。<あの日、「生かされた」私たちは、犠牲になった方々を決して忘れない。そして、彼らに誇れる新たな古里を必ずつくり上げる>との思いからだった。

 その紙面では、二戸市の天台寺名誉住職でもある徳島市出身の瀬戸内寂聴さんが寄稿。犠牲者を悼み、遺族を励まし、陸前高田の被災者からの手紙に触れて<志の高い故郷を愛する人とお友達になれたことだけでも有り難い>と寄せた。

 以来、「忘れない」では3480人の人となりを記事にしてきた。生きた証しをと語り尽くせぬ話を顔写真と一緒に100文字余りに込めた、取材した記者の悔しさ、もどかしさまで伝わる企画である。

 震災から10年。岩手日報は原点に返ろうと、「忘れない」に協力した遺族2597人に、再び連絡を取り始めた。10年前の、あの思いに立ち返らせてしまう、心の傷を深くしてしまわないか。記者は、迷い逡巡(しゅんじゅん)しながら1都6県に暮らす458人と対面し、歩みを文字に起こした。

 今回の再取材で浮かび上がってきた「移動の多さ」「時間がかかる再建」「孤立」―の課題を1日付朝刊で掲載し、「最後の一人まで寄り添う支援を」など五つの提言を掲げた。被災者と共にある地元紙の決意を示したともいえる。

 川村さんと、記者たちを突き動かしたのは「座したままでは風化と闘えない」との思いである。

 この11日、例年の倍以上となる特別号外約2万8000部を印刷する。青森、秋田、沖縄で道行く人に手渡し、東京、愛知、京都、愛媛の関係先に配る。全国の中学校にも郵送する。

 さらに英語版1400部を初めて作る。「トモダチ作戦」と呼ばれた日米合同救援活動を忘れない、風化させてはならないとの取り組みだという。

 川村さんは、愛知で開かれる東海岩手県人会の追悼式に出席し、号外を配る。

 「自助」が強調され、人と人の触れ合いが敬遠される時だからこそ、手渡すことで生まれる出会いを大切にしたい。今年の特別号外は、そう教えている。

岩手日報「東日本大震災10年特集」ページ⇨https://www.iwate-np.co.jp/page/higashinihon2021