[上]「随筆集 わがふるさと徳島」について語る寂聴さん=京都市の寂庵 [下]「随筆集 わがふるさと徳島」の表紙

 徳島市出身の作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが執筆した、徳島に関するエッセーをまとめた「随筆集 わがふるさと徳島」(ことのは文庫、400円)が出版された。5月に95歳を迎えても、精力的に活動する寂聴さん。作品に込めた古里への思いや近況などについて聞いた

 「私が書いたものなんだけれども面白くって。ずっと読んじゃった」。法衣に身を包み、穏やかな表情を浮かべる。

 随筆集は、1965年から2004年までに手掛けた随筆の中から、38編を選び1冊にまとめた。幼少期の文学との出合い、両親や姉に向けた思い、徳島の自然、徳島出身のゆかりの人物など、幅広い対象にまなざしを注いでいる。

 表紙は、鳴門市出身の文楽人形師・大江巳之助(故人)に依頼した文楽人形の首だ。収録の「おその」(1980年)には、その入手までの経路が描写されている。会心の出来となったため、なかなか手放そうとしなかった巳之助。月日を経て手に入れた時の喜びを<恋いこがれた女を身受けした時の、昔の放蕩者の天にものぼる気持が、私にもわかったような気がした>と記した。

 「巳之助さんは上品で優しい人だった。昔のことはずっと忘れない。書いた時の気持ちも思い出せるわね」

 「ふるさとの風」(2002年)では、道ならぬ恋に落ち、小説家となるため、家も家族も捨てた身の上を振り返りながら、01年11月に徳島市名誉市民の称号を贈られた時の心情や古里に向けた思いをつづっている。自身に向けられる反発も飲み込んだ上で<幾山河流離の涯(はて)にふるさとの/風はやさしくわれを包めり>との短歌で結んだ。

 「若い頃は古里なんて何もない所と思っていたけれど、年を取ると古里への思いが出てくる。県立文学書道館もできたし、塾もつくった。結構徳島のために尽くしている方じゃないかしら」と笑う。

 14年に腰部の圧迫骨折や胆のうがんを患い、今年3月には心臓の手術を受けるなど、入退院を繰り返すことが増えた。それでも、京都市の寂庵で毎月法話の会を開いているほか、5月には名誉住職を務める岩手県二戸市の天台寺に赴き、法話を行った。6月には初の句集「ひとり」も出した。

 「私の喜びは本を出すこと。病院で入院していると気がめいり、うつになって病気に負けてしまいそうになる。これからも短編とかをやっていきたいわね」とほほ笑んだ。