バナナの葉が茂るハウスの中で。「いつか観光農園を開くのが夢です」と笑顔の矢野さん。

 徳島で奮闘する若手農業家を訪ねた。就農した理由や実際に始めてわかったこと、仕事のやりがいや苦労、今後の展望についてなどホンネと現実をインタビュー。戦略を立てて農業というビジネスを楽しむ人、栽培した作物を使って加工品を生み出す人、新品種の研究に挑む人…。それぞれのやり方で自らの道を切り拓こうとしている。

阿波甘蕉園の矢野忍さん(46・板野町在住)

 2018年、借りている土地を有効活用するため、農業に挑戦することを決めた矢野さん。「徳島にない作物にしようと探していたとき、知人がバナナを栽培されている方を紹介してくれました。ふとイチゴ狩りやブドウ狩りはあるけど、バナナ狩りって聞いたことないなぁって思ったんです」と、屈託のない笑顔を見せる。調べると全国各地でバナナが栽培されている。「楽しそう!」と持ち前の思い切りの良さで、岐阜県で温泉を利用してバナナ栽培を行う奥飛騨ファームから苗を購入した。当時、矢野さんはまったくの農業未経験者だった。

 2018年5月、敷地内にハウスを設け、昔よく食べられていたグロスミッチェルと、耐寒性のあるアイスクリームバナナ、鉢で栽培するスーパーミニバナナの3品種、全部で130株を一人で育てはじめた。「水はけさえよければ土はなんでもOKなんです。夫が重機で深さ1m50cmぐらいまで耕してくれたんですが、ここは川原!?ってくらい石が多くてびっくりしました。でも石があるおかげで地温が安定しているみたいなんで良かったです」と微笑む。

 苗を植えてから約1年後の2019年6月、苗丈が3mぐらいになった。正しい生長速度がわからず、天井を突き破ったらどうしようとビクビクしていたある日、クシャッとした葉が出ているのに気がついた。「天井につっかえていたから変な葉っぱが出たと心配して切ってみたら、中にバナナの赤ちゃんができていました。マイナスなことばかり考えていたから冷静な判断ができなくて、花が咲く

 合図を見逃してしまったんです」。こうした失敗を経験しつつ、同年10月に初めての収穫期を迎えた。1本ずつ袋詰めし、阿波市・JA夢市場と徳島市・喜多野安心市で販売。「お客さまから、作り手さんが一生懸命育てているのがわかるって言われて涙が出そうになりました」。

 2020年10月、2回目の収穫期を迎えるはずだったが、実がなかなか太らず、黄色くならない。ハウス北側の南列に植えたアイスクリームバナナだけは、暮れにようやく色づいたため出荷できたが、北列の方は今も緑色の実をつけたまま。生長を休み、越冬中のようだ。

 「前例がないので原因をつかめてないのですが、前の年と違うのは、雨が長かったことと、11月が暑すぎたこと。照度不足も考えられるので、天井を半透明から透明に変えることにしました」。

 農家さんに憧れて飛び込んだ世界。2019年4月から1年間は、石井町にある農業大学校へ週に1回通って基礎を学んだ。吉野川農業支援センターや阿波市農業振興課など様々な機関の方も気にかけてくれている。

 「目の前のことに精一杯で、水をどれだけあげてる?って聞かれても答えられなかったんです私。そういう感覚的なところを数値化させて、半年先、1年先…と考えていけるようにならないと」と目標を語る。「今は起こった状況に対して最善を尽くしたい。“こういうときは、こうする”という方法を導いている最中です」。

徳島県阿波市吉野町西条大井5-5
090-7622-2699(9:00〜15:00)
現在は出荷シーズンではありません。

雇用予定:将来的には雇用体制を整えたい
研修受け入れ:なし
見学受け入れ:あり(要予約)