地元の人が方言と気付かずに全国で通用すると判断して使う「気付かない方言」の特徴の一つに「語の分布域がある程度広く、他の方言形や共通語形との直接の接触が少ない」があります。本四架橋の開通よりもずっと昔、海上交通網もさほど発達していなかった昭和時代初期の阿波弁や四国方言は、この特徴を持ち、気付かない方言が多いといえそうです。

 言語学者の藤原与一は1933(昭和8)年から翌34年にかけて、各地の女子師範学校の生徒を対象に方言調査を実施しました。この結果をまとめたのが「中国四国近畿九州 方言状態の地理学的研究」です。徳島や四国に集中して分布するものをいくつか挙げてみます。

 「踵(かかと)」を表す「キリブサ」は、「日本書紀」の「久比婢須」(クビヒスまたはクヒビス)に由来する言葉で、四国一帯に広がります。ここから「クビス」「キヒヒス」などの語形を経て「キビス」となりました。近世に上方で使用された語で、現在も西日本の高齢者らが使っています。似た語形として、県内には「キブサ」「キビショ」があります。

 井戸を「イズミ」と言うのは徳島と香川、愛媛の東予地方に集中します。「出水」のことで、「日本書紀」や「宇津保物語」(平安時代中期)では、地中から湧き出てくる水、湧き出る場所を指しました。

 昨春、鳴門市の堂浦で調査した際、袖のない服を「デンチュー」と言うことを知りました。調べてみると「電柱」とは無関係で、旗本奴が愛用した「殿中羽織」に由来する言葉だと分かりました。分布域は阿波市や吉野川市よりも東です。県外では香川の東讃地方にわずかと淡路島の南端に見られるだけです。美馬市以西では「デンチ」で、愛媛の中予辺りまで使われています。

 「トエル」は県南や美馬市以東で「叫ぶ」「泣く」の意味で使われており、淡路島にも広がっています。香川、岡山にもわずかながら分布があります。よく似た意味の語として県西や県南には「ウドム」があり、中四国や九州でも使用されています。

 日本書紀や「万葉集」の時代には鳥獣の鳴き声、波や地震の鳴動を「とよむ」と言いました。その後、平安中期には濁音化した「どよむ」が人の声が騒がしいことを言うようになりました。「ウドム」は、「うなる」と「どよむ」の混交形だという説があります。

 発音の面では、「蚊」を「カー」と二拍に、「服を着て」の「着て」を「キーテ」と三拍に伸ばす傾向があるようです。現在でも、「オハヨウゴザイマスー」「○○デスー」など、伸ばす音をよく聞きます。