子育て家庭に食べ物を届けるクレエールの原田(左)と喜多條(中)=徳島市

 午後4時すぎ、1台の軽ワゴン車が徳島市の万代中央埠頭(ふとう)を出発した。荷室いっぱいに積んだ弁当や野菜を、生活に余裕のない子育て家庭に無償で届ける。NPO法人クレエールの「こども宅食」だ。新型コロナウイルスの影響で暮らしが行き詰まる家庭も多く、依頼が増えている。

 「もしもし。いま万代町の事務所を出ました。予定通り5時ごろお宅に着きます」。後部座席でファイルを広げる理事の喜多條雅子(57)が届け先に電話を入れた。順路は利用者の希望時間に合わせ、事前に決めている。だが、「え、まだお仕事が終わらない?」。

 宅食の利用者は、仕事も家事・育児も一手に担うひとり親がほとんど。なかなか計画通りには回れない。日中は留守がちで配達は主に夕方から。帰宅ラッシュとも重なり、午後9時までかかる日もある。

 それでも、玄関先に置くだけでは目的を果たせない。親子に困った様子がないかを見守るのが肝心だからだ。「子どもに会えないなら次の家に行こう」。理事長の原田昭仁(60)がハンドルを切った。

 訪問先に着くと、原田は人気キャラクター「ミニオン」の黄色いニット帽をかぶった。呼び鈴を鳴らす。「ミニオンのおっちゃーん」。4歳の男の子が駆け寄ってきた。玄関におもちゃを並べ、「見て、見て」と甘える。喜ぶ子どもの姿に、母の20代女性も笑みを浮かべた。

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 初めて訪れた昨年10月、親子の表情は暗かった。女性は3年前に夫を亡くし、社会から孤立した。子どもと一緒に死のうと何度も思った。さらに新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛生活で追い詰められた。

 支援団体の案内で、宅食を申し込んだ。やって来たのが原田と喜多條の2人。弁当なら調理をしなくて済む。心に余裕ができた。「心配してくれる人がいるだけですごく安心できる。ありがとうございます」

 クレエールが宅食を始めたのは昨年10月。きっかけはその1年半前、運営している「子ども食堂」にかかってきた1本の電話だった。「年下のきょうだいと留守番をしている。今から3人分のお弁当をもらいに行ってもいいですか」

 声の主は小学生の男の子。電話を受けた喜多條は弁当を用意して待ったが、児童は現れなかった。「お兄ちゃんが出掛けようとして、きょうだいが泣いたのかな」。学校に通いながら家族の世話をする「ヤングケアラー」かもしれない。「ずっと気掛かりだった」

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 こども宅食を全国に広げている認定NPO法人フローレンス(東京)に学び、弁当や野菜など5千円相当を月1回届ける取り組みを始めた。加えて今年1~3月には、週1回配達する市の委託事業も担った。配達先は計110戸(子ども189人)に上った。

 「助けを必要とする人がこんなにいるとは」。原田は困窮する家庭の多さに驚いた。大半が非正規雇用のシングルマザー。コロナ禍で失業したり収入が減ったりした人も多い。

 「お仕事見つかった?」「やっと一つ決まりそう。でもダブルワークしないと生活できない」。女性に近況を尋ね、気持ちに余裕をなくしていないか気を配る。何度が訪れるうち、引きこもりの児童が姿を見せ、「ありがとう」と言ってくれるようになった家もある。

 「困っている人が孤立するのを防ぎたい」と原田。最近、うれしいことがあった。宅食を機につながった親子が、クレエールの「子ども食堂」に来てくれるようになった。

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 障害者の働く場をつくろうと13年前に発足したクレエール。「誰一人取り残さない」との思いで、近年は活動の幅を広げている。コロナ下で奮闘する姿を追った。=敬称略