旧日本軍の陸軍駐屯地が置かれていた徳島市蔵本地区。跡地は徳島大学病院や県蔵本公園に姿を変え、多くの人々が集う。国道192号を挟んだ蔵本駅周辺は、歴史を感じさせる建物が残る中、新たなにぎわい拠点も生まれている。落ち着いた雰囲気を醸し出す街並みを歩いた。

Town Cafe 林 定番オムライス人気

 蔵本駅から国道192号までの間にはいくつもの喫茶店が軒を連ねる。「喫茶店文化」が根付いた街として知られ、バブル経済期には一帯で20軒を超える店が営まれた。先駆けとなったのが、東京五輪が開かれた1964年に開業した「Town Cafe 林」だ。

「時間をかけることを楽しんでほしい」と話すマスターの林さん=徳島市蔵本町2

 現在のマスターは2代目の林幸雄さん(66)。開業した父の正さんから約40年前に店を引き継ぎ、時代に応じてメニューを改良してきた。「ごく普通の喫茶店。ただ、積み重ねてきた歴史が今につながっている」と話す。

 「良質なものづくりには、適した時間と手間がある」が信条。コーヒーは、今もアルコールランプのサイホンを使ってたてている。時間がかかる分、ガスにはないコクと香りが表現できると言う。提供する食事も食材にこだわる。定番のオムライスは火の入れ具合を好みに応じて注文でき、老若男女を問わず愛されている。

 「喫茶店の本質は父の代から変わらない。これからも自分なりのスタイルで、できる限り続けたい」と林さん。朝7時の開店から常連が続々と訪れ、昼時には大学生や病院帰りの人が立ち寄る。蔵本の歴史とマスターのこだわりが香り立つコーヒーを片手に、ゆったりとした時間を楽しんでいる。

 蔵清水 生活潤す駅前の名水

 地域住民だけでなく、徳島市外からも連日詰め掛ける「蔵清水」。蔵本自治会が伏流水の給水施設として1991年に整備し、蔵本駅前のシンボルとして愛されている。

連日多くの人が潤いを求めて訪れる「蔵清水」=徳島市蔵本町2

 くみ上げられた地下水のpH値は、中性(7・0)に近い6・8。くせのない、まろやかさが魅力だ。「蔵本」と「暮らしの水」をかけた名の通り、調理や飲用などに活用されている。

 複数のポリタンクに水を入れて車に積み込む人や、散歩がてら水筒に注ぐ人、通りかがりに手ですくって味を確かめる人・・・。大量に持ち帰るケースもあり、案内板で「1人あたり20リットルを限度に利用してほしい」と呼び掛けている。

 かつては人気ゆえに、水を求める人の車が列をなし、路上駐車が度々あった。近隣住民の声掛けや注意書きの設置などによって、現在ではマナーの悪い利用者を見かけることはなくなったと、蔵本自治会の会員は言う。

 徳島市南矢三町3の森節子さん(86)は毎日立ち寄り、2リットル入りペットボトル3~4本分を持ち帰る。薬を服用したりお茶を沸かしたりと、生活のさまざまな場面で活用している。「水質が良く、安心して飲める。今の暮らしに欠かせない」。蔵本駅前にお目見えしてから30年。多くの人に親しまれ、生活を支えている。

くらもと日の出 甘味「練り切り」100種

 1928年に創業した和菓子店「くらもと日の出」。4代目の多田真一郎さん(40)は、90年余りの伝統を受け継ぎながら、新しい風を吹き込んでいる。

「くらもと日の出」4代目の多田さん=徳島市蔵本元町2

 看板商品の一つが、色鮮やかで見た目も楽しい「練り切り」だ。現在は桜や新入生を模した6個入りの「春のおめでとうセット」を販売中。夏にはイルカやペンギンの形に仕立てるなど、季節に応じて工夫し、その数は約100種類に上る。

 こしあんを薄焼きで挟み、しっとりとした食感が特徴の「あやとり」も長く親しまれている。薄焼きがなじむよう、あんは緩めの配合で炊き上げ、口の中でごまと黒糖の香りがふわりと広がる。片手で食べやすく、デスクワークのお供にも人気だという。

 新たなファンの獲得にも大きな役割を果たしている。アニメキャラの「練り切り」を形作り、インターネット上で公開したところ全国的に話題になった。これまで縁がなかった若い世代との接点を生み出した。

 県内の小学校で職業体験の講師も務める。未来の和菓子ファンを発掘するとともに、子どもの率直な感想に耳を傾け、自分自身の糧にしている。

 日々技術を磨きながら、時代を読んで新しいニーズを生み出していく。「『おいしい』と言ってもらえる瞬間をモチベーションに、これからも努力を重ねたい」と話した。

エミールカルチャー&マルチスペース 旧校舎 学びの場に

 蔵本駅から西に5分ほど歩くと、落ち着いた住宅街に溶け込むように「学びや」がたたずんでいる。1978年まで運営された私立徳島高校の校舎をリノベーションし、2014年に幅広い世代のための学校「エミールカルチャー&マルチスペース」として生まれ変わった。

懐かしい学校の雰囲気がそのまま残る「エミールカルチャー&マルチスペース」=徳島市庄町1

 代表を務めるのは永山愛さん(41)。祖父が設立した徳島高校の解体話が持ち上がった時、校舎を活用して事業を起こすのは必然のように思えた。「最初は正直、勢いだった。講師を依頼するのも飛び込みで相手にされないこともあった」と振り返る。今では年4期で約100講座を用意するまでに成長した。

 料理や音楽、写真などの定番から、ダンスと格闘技が融合したブラジル発祥の「カポエイラ」といった意外なジャンルまで多種多様。コンセプトの一つである「『やってみたかった』がかなう場所」となるよう豊かな内容をそろえる。

 歴史ある学校の温かい雰囲気に現代風のアレンジが加わった建物も注目を集め、カメラマンやコスプレイヤーが撮影に訪れることも。カルチャースクールの枠組みを超え、アートやカフェイベントなど人が交流できる企画を模索している。

 永山さんは「蔵本の魅力を多くの人に知ってもらい、人が行き交う場所にしたい。そのために何ができるかを考え続けたい」と意欲的だ。