最後に取り上げた赤ちゃんを見つめ、ほほえむ梶院長=徳島市寺島本町東の梶産婦人科

 徳島県内の無痛分娩(ぶんべん)をけん引してきた徳島市寺島本町東の「梶産婦人科」が3月、約110年続いた「産院」としての業務に終止符を打った。無痛分娩数は3100例を超え、出産の選択肢拡充に貢献してきた。麻酔や分娩、帝王切開の全てを産科医1人が担ってきたが、人員不足による負担が大きく、苦渋の決断を下した。妊産婦からは惜しむ声が上がっている。

 梶産婦人科は1909(明治42)年、梶完次氏が開設。現在の博之院長(54)の祖父に当たる博久氏に引き継がれ、婦人科系疾患の診療治療を中心に行い、3代目の博氏の代に分娩を半分まで増やした。少子化が進む中、分娩数の維持と他院との違いを出すため、2004年に麻酔により出産の痛みを軽減する無痛分娩を導入。今後は健診や診療は継続するものの、徳島市内で無痛分娩の希望に応える施設はなくなった。

 博之院長が全処置を担い、当初4%だった同院の無痛分娩率は10年に44%、14年に90%以上を占めた。16年から無痛分娩のみを扱い、症例数は計3126例に。記録のある1981年以降の総分娩数は1万2千例を超えた。

 しかし、麻酔や分娩、帝王切開を梶院長1人で行う過酷さから、2年前に分娩中止を検討するようになった。夜勤が敬遠されてスタッフの補充も難しい上、出生数の減少や新型コロナウイルスの感染拡大で里帰り出産の受け入れがなくなったこともあり、昨年7月に決断した。

 3月5日、梶産婦人科での最後の赤ちゃんが生まれた。梶院長は「感極まるものがあるかと思ったが、むしろ普段通り。まだ実感がない」とぽつり。「これからじわじわと、大変なことをしたと思うのかも」と複雑な表情を浮かべる。

 最後の分娩患者となった佐藤直美さん(39)=徳島市東出来島町、会社員=は「徳島の無痛分娩といえば梶先生。どうしても先生に取り上げてほしかった。全然痛みがなく、赤ちゃんの位置を感じながらリラックスして出産できた」と笑顔を見せる。同時に「スタッフも優しく親しみがあり、温かい産院だった」と惜しんだ。

 厚生労働省によると、昨年6月時点の県内の無痛分娩取扱施設は4施設で、同院は唯一の民間施設だった。梶院長は「子どもへの愛情に痛みの有無は関係ない。女性が出産の選択肢を持てることが大切であり、その手助けができた」と振り返る。

 今後は子宮筋腫など婦人科疾患の診療や妊婦健診(32週まで)を中心に、高濃度ビタミンC療法によるアンチエイジング治療、子宮頸がんワクチン接種に引き続き対応する。「女性の健康を助ける存在」として、変わらず力を注いでいく。