「気付かない方言」には、「語の構成要素レベルでは標準語と同じだが、組み合わせてみると標準語と異なる言葉」もあります。言語学では語の構成要素を「形態素」と言います。形態素を部品に例えれば、標準語の部品を二つ組み合わせてできた方言を取り上げます。

 「中国四国近畿九州 方言状態の地理学的研究」(1990年)によると、家や階段の「上がり口」を言う「アガリハナ」は、徳島県では吉野川沿いに見られるほか、四国全域、淡路島の南半分、瀬戸内海沿岸で使用されている言葉です。「ハナ」は「端」のことで、平安時代から物の先端や末端の意味で使われています。「阿波言葉の辞典」(1960年)には「野菜や魚など季節の初物」との記述もあります。「上がり」も「端」も標準語ですが、組み合わせると方言です。

 標準語の形容動詞「利口だ」「面倒だ」の「だ」が、形容詞の終止形活用語尾「い」になったものとして、県内には「リコイ」(利口い)や「メンドイ」(面倒い)があります。「利口」も「面倒」も、下接する「い」も標準語ですが、組み合わせると方言です。「リコイ」は「賢い、利口だ」の意味で、「日本国語大辞典」によると徳島と愛媛で使われます。

 「メンドイ」はさまざまな意味を持って各地で使用される言葉です。「面倒だ」「面倒くさい」が最もポピュラーな意味で、東海から九州まで広く使われます。「見苦しい」「体裁が悪い」の意味もあって、こちらは北陸から中四国に見ることができます。「困難である」「難しい」の意味は大阪と四国にありますが、「中国四国近畿九州 方言状態の地理学的研究」によると、徳島と香川が中心です。

 「面倒な」の語源は、日本国語大辞典によると「目だうな」に求める説が有力です。「目だうな」は「目」に接尾語「だうな」が付いたものです。「だうな」は「無益に物を浪費すること」「無駄になること」の意味で、「平家物語」(鎌倉時代)に登場する「矢だうな」「手間だうな」「暇だうな」などの例があります。

 「目だうな」は「見るのも無駄、無益なこと」が元々の意味で、そこから「体裁の悪いこと」「見苦しいもの」を指すようになったと考えられます。その後、「ン」が挿入されて撥音化した「メンドウナ」が定着した後、さまざまな意味が各地で派生したのでしょうか。「面倒」の表記は、「メンドウ」という発音に引かれたものだと考えられています。上記のほかにも、徳島や香川では「気難しい」「意地悪い」の意味で使われ、徳島や高知などでは「恥ずかしい」ことも指します。