徳島発ロックバンド・チャットモンチーの元ドラマーで作家・作詞家として活躍している高橋久美子さん(愛媛県出身)が、エッセー集「いっぴき」(ちくま文庫)を6月9日に刊行する。チャットモンチーを脱退後に書きつづった文章をまとめたもので、書き下ろしエッセーや短編小説も収録している。高橋さんにエッセー集に込めた思いや、7月で完結するチャットモンチーへの思いを聞いた。

高橋久美子さん

 

新著「いっぴき」

 ◆エッセー集の内容は?どんな思いを込めた?

 タイトル「いっぴき」は、2011年のチャットモンチー脱退後、自分一人で文章を書いて生きてきた集大成という意味を込めました。

 2013年に発表した初エッセー集「思いつつ、嘆きつつ、走りつつ、」を文庫化する企画からスタートしたんですが、その後の5年間に成長した部分もあるはず。雑誌などに寄稿して書籍化していない原稿や、書き下ろした原稿も1冊にまとめました。

 文筆家として依頼を受けて書いた原稿は、音楽に例えるとライブのようなもの。ステージに上がるたびにスキルが上がるように、1本1本書くたびに成長したと思うので、それを見てもらいたい。

 日常生活や古里四国のこともつづりました。古里や母校・鳴門教育大学の部分が多くて、今の自分の根幹をつくったのは四国なんだなとあらためて感じます。暮らしていた頃には気づかなかった、離れてみて見える四国のこと、大人になって感じる思いを書いています。

 

 ◆巻末の解説はチャットモンチーの橋本絵莉子さん、帯推薦文は福岡晃子さんが担当。

 

えっちゃん(橋本さん)から、アルバム収録曲の歌詞の依頼があったので、私も本の解説と帯コメントの依頼をする勇気が出ました。えっちゃんの文章を読んで、「そんなふうに思ってくれていたんだ」とうれしく感じました。依頼していなければ聞けなかった気持ちなので、思いきってお願いしてよかった。あっこちゃん(福岡さん)も、一緒にステージに立っていた仲間として私をよく分かった上で、本の魅力を伝えてくれている。愛情を感じるコピーライティングです。

 

 ◆チャットモンチーのラストアルバム「誕生」には高橋さん作詞の「砂鉄」も収録。詞に込めた思いは?

 チャットモンチーへの感謝と、一緒にやってこられてよかったという気持ち、それぞれの道に進む2人へのはなむけの気持ちで書きました。「砂鉄」というタイトルは、磁石を砂場に入れると砂鉄だけがくっついてくるように、どこにいたとしてもくっついて集まる運命の3人だったんだなという思いを込めました。

 3人は、きっと同じクラスにいても交わらないくらい個性が違っていて、単なる仲良しな友達ではない。音楽で結ばれた関係で、それぞれの個性を尊重し合う、絶妙な距離感。脱退した後も解散しても、その絆は切り離せないものだと思う。

 作詞の依頼に、どの立場から書くといいかなと悩みました。今までたくさんチャットモンチーの詞を書いた中で、いちばん時間が掛かりました。自分の中でもいろいろな思いが錯綜していたし、ファンがどう受け止めてくれるかなって。

 

 ◆7月での完結を発表しているチャットモンチーへの思いは? 

 私にとってもチャットモンチーが一区切りするな、という気持ちです。自分がチャットモンチーの一員だったということを強く意識するようになったのは脱退後です。最近は「元チャットモンチーの…」という肩書が外れて、「作家・作詞家」と言われることが増えたけど、チャットモンチーは自分にとっての勲章です。

 脱退後、チャットモンチーが2人で頑張った時間と自分が1人で頑張った時間、離れていてもお互いを意識していました。テレビなどで2人が活躍する姿を見ると、「頑張ろう」と思えて、私の背中を押し続けてくれた。2人がチャットモンチーを続けてくれて、それぞれ大人になって最後に協力し合う機会ができて、いい形で終わりを迎えることにホッとしています。

 私がチャットモンチーに加わってから脱退するまで8年間、長い人生の中では短い時間だけど、一緒にモノをつくり上げた濃厚な時間です。感覚的なもので結ばれていた関係は何物にも代えがたい、大切な存在。3人それぞれの道を歩むけど、「ありがとう」「これからもっと自由に」という気持ちです。

 

 ◆エッセーのPRを

 歌詞には私の人生が集約されているけど、それを全編にちりばめたのが今回のエッセー集です。そう思うと、私の根っこはチャットモンチーの頃から変わっていないです。チャットモンチーのメンバーと出会った鳴門教育大学をはじめ、古里愛媛や徳島など、四国のことをたくさん書きました。

 自分の書いたエッセーを読み返してみると、つくづく自分は変わり者だなって(笑)。チャットモンチーに加わったり脱退したり、モノを書いたりと、思った通りに決断する中で、いろんな人に愛されながら生きてきた。

 今悩んでいる中高生は、「こんな生き方もあるんだな」「こんな大人がいてもいいなら自分も頑張れる」と思ってもらえたら。私自身がうまくやれないタイプの中高生だったから、「そのままで大丈夫だよ」と伝えたい。そのままの自分をかわいがってあげてほしいです。

 

 高橋久美子(たかはし・くみこ)

 1982年、愛媛県生まれ。チャットモンチーのドラマー・作詞家として2005年メジャーデビュー。2011年9月に脱退し、翌年から作家・作詞家として活動。詩画集「太陽は宇宙を飛び出した」、絵本「赤い金魚と赤いとうがらし」ほか。新作人形浄瑠璃の脚本を担当するなど、幅広く活躍している。 

 「いっぴき」(ちくま文庫)

 

6月9日発売 740円(税別)