徳島市の阿波踊りを主催する阿波おどり実行委員会(委員長・内藤佐和子市長)が3月末に突然解散し、キョードー東京など民間3社共同事業体との契約を一方的に解除した。4月12日に都内で会見した前田三郎・キョードー東京取締役は損害を被ったとして、実行委員会の事務局を務めた市に賠償を求める方針を明らかにした。これに対して内藤市長は翌13日の定例会見で「契約通り粛々と対応していた」と主張。今夏は規模を縮小した上で、市主催で阿波踊りを開催すると発表した。遠藤彰良・前市政が導入した民間委託方式による踊り運営を否定するかたちとなるこの方針転換について、遠藤前市政で民間委託方式を提言した「阿波おどり事業検証有識者会議」、民間委託による運営を検証した「阿波おどり事業評価委員会」のメンバーを務めた本家大名連の清水理連長(73)に見解を聞いた。

本家大名連の清水理連長

―阿波おどり実行委員会が解散し、民間事業体との契約を一方的に解除したことをどうみるか。

 阿波踊りは市長のものではない。みんなの祭りだ。突然の解散、契約解除はめちゃくちゃだ。市長は市民に説明できていない。こんなことがまかり通るのだろうか。きちんと説明した上で、市民の理解を求めながら政治を行っていくのが首長の役割ではないか。一般の人からも「おかしい」という声をたくさん聞く。

―4月13日の会見で、記者から阿波おどり実行委員会を解散した理由を改めて問われ、内藤市長は答えられなかった。

 市長は阿波踊りのことを全然分かっていないんじゃないか。分かっていないから「対話」ができない。今回、市長に就任して1年。分かっていないであろう市長から次から次へと阿波踊り関連の施策が出てくるのはなぜなのか疑問だ。

3月末の実行委員会解散後、初めての市長定例記者会見。市長は「微熱がある」とのことで、リモート会見となった=徳島市役所、4月13日

―清水さんが有識者会議や事業評価委員会に入り、制度設計に関わった踊り事業運営の民間委託方式が、こんな形で破綻したことをどう捉えるか。

 残念だ。少なくとも、キョードー東京など関係者と話し合いをしてほしかった。

 そもそも、実行委員会の委員長に内藤市長が就くこと自体、私はおかしいと思っていた。有識者会議では、「(阿波踊りは興行性が高いという理由から)行政の関わりは限定的な方がいい」として、民間に任せることになっていたはず。また、「運営を委託されたキョードー東京から委員を出すべきだ」と会議でずっと主張してきた。運営だけ任され、意思決定の場に参加できないのはおかしいと思っていたからだ。実行委員会にキョードー東京が入っていれば、また違った結果になっていたのではないか。

―新型コロナウイルスの広がりで阿波踊りが中止になり、事業体は赤字となった準備費約2100万円の分担を求めたが、実行委員会は応じていない。事業体は納付金500万円の支払い免除も求めたが、これも拒否している。

 市長は公金による赤字補塡は「議会や市民の理解を得られない」としていたが、「徳島市の阿波踊りのためである」と丁寧に説明したら、市民の理解は得られるのではないか。また、納付金についての協議に委員会が応じないのもおかしい。一般的な感覚からすれば、コロナは「不可抗力」だ。一方的に支払いを求めるのはどうか。

「これまでいろんな仕事をしてきたが、こんなことは正直言って初めてだ」と会見で話す前田取締役=東京都内、4月12日

キョードー東京の前田取締役の会見詳報はこちら

―そもそも、遠藤市政で民間委託方式を導入したのは、4億円あまりの累積赤字が問題となったからだ。それまで、経済成長期の「拡大路線」の運営を続け、桟敷の空席も目立っていた。その損失を税金で補塡する仕組みだった。経済の停滞期に入ると、そうした支出も厳しくなる。

 市に委ねていると、誰の負担にもならない。桟敷に多くの空席があるのは誰の目にも明らかだったのに、誰も何の改善策も取らなかった。かつては桟敷もいっぱいで、踊り手に掛け声もたくさん飛んでいた。今とまったく違う。桟敷は保管にも、設営、撤去にもお金がかかる。空席があるということは経済的なマイナスを意味するのに、「市の予算でいっきょるから」と他人任せになってしまう。また、(2004年に)桟敷を二部の入れ替え制にしたことも「拡大路線」の発想上にあると思うが、これはお客さんにとってどうだったのだろう。私は空席をさらに増やすことになったと思う。一部制に戻すよう会議で提案したが、実現しなかった。

 とにかく、市民が納得する運営方法を有識者会議メンバーで模索した結果、民間委託方式に落ち着いた。メンバーはいろいろと批判もされたが、議論を尽くしたと思っている。

 

―会見で市長は「阿波踊りを徳島市の主催にする」と発表した。際限のない公金投入を防ぐために遠藤市政では民間委託をした。今回、市主催となることで、また公金投入型のイベントに戻る可能性も出ている。収支計画はまだ明らかになっていない。

 元のもくあみになると困る。踊り手側も「市がやってくれるなら、(収支は)関係ない」という態度を取ってはいけない。金銭面がずさんな管理に陥らないように、責任を持って監視する役職がいる。市民が納得できるように、議論の内容や収支をガラス張りにしなければいけない。良識の範囲なら公金支出に市民の理解も得られるだろうが、それが膨らんでくるとどうか。

 運営はできるだけスリム化するのがいい。保管、設営、撤去にお金がかかる桟敷はなくすか、もしくは1カ所ぐらいに限る方法もある。誰もが自由に見て、踊れる「体験型」の阿波踊りに変わっていくべきだと思う。

―内藤市長は会見で「地域全体で黒字なら、阿波踊り事業は赤字でもいいのではないか。そういうことも考えて再検証したい」と述べた。この発言をどう捉えるか。

 問題だ。それで徳島市観光協会は破産することになった。まずは、阿波踊り事業だけで収支を見て、その上で地域の経済効果をはかるべきだ。

 徳島県はこれからどんどん人口減少、高齢化が進む。ここで生きる若い世代に税金のつけを払わせてはいけない。そう思いませんか。

「見る阿呆」も「踊る阿呆」になれるのが阿波踊り。清水さんは桟敷を減らし、「体験型」に変わっていくべきだと話す=2018年、東新町商店街

―今夏の阿波踊りには参加するか。

 参加の意向は伝えたが、新型コロナウイルスの感染状況を見ながら判断する。今、連では感染予防を優先し、練習していない。「もしも感染したら」という「もしも」を考えると、できない。阿波踊りを開催するにしても、人混みの感染リスクをどうコントロールするのだろうか。例えば、アスティとくしまだけで開催するといった方法もあったのではないか。

 医療や福祉関係の仕事をしている人のことを考えると心境は複雑だ。

―徳島市は「クラウドファンディング」などで寄付を集めるともするが、これまでの経緯を踏まえると、市民は協力する気持ちになれないのではないか。阿波踊りのイメージも悪化している。

 市長にはまず、キョードー東京、市民ときちんと向き合って、話し合いをしてほしい。市民感情からすると、それなくしては前に進めないだろう。

 祭りはみんなが喜んで来てくれて、楽しむものだ。このコロナ禍で経済も悪化し、今後、県外からどれくらい観光客が来てくれるか分からない。まずは地元、徳島で愛される阿波踊りに戻す。それが一番大切だ。愛される阿波踊りになれば、よそから見に来てくれる人も増えるだろう。

 そのためにも、市長には「対話」をしてほしい。