人間の「死」とは最も遠いところにある「生」に関わりたいとの純粋な思いから産婦人科医の道を選んだ。「1組の男女から新しい命が生まれる。1足す1が3になるための治療に、とてもやりがいを感じている」と話す。
 
 晩婚化などを背景に不妊に悩む人は多く、治療を受けている人は全国で推計50万人。「一般の人は体外受精をすれば大抵妊娠すると思っているだろうが、実際はそんなに簡単ではない」。高度な生殖医療を受けても出産できない患者が少なくない中、新たな治療法の確立に情熱を燃やす。
 
 自身の研究成果として、体外受精を3回やって妊娠しない人を対象に、受精卵を異物とみなして排除しようとする傾向が強い体質かどうかを調べ、その拒絶が強い人には免疫抑制剤を使うことで妊娠率を上げることに成功。2011年から導入し、これまで100人の赤ちゃんが生まれている。学会でも発表しており、民間病院で少しずつ普及してきているという。「まだ十分に信用されていない手法だからこそ知ってもらう努力が必要」と、全国各地のクリニックに赴いて説明会を開いており「徳島からもオファーがあれば喜んで行きますよ」。
 
 分娩(ぶんべん)に立ち会う仕事ではないため、赤ちゃんが無事に生まれ、育っていく様子は家族からの年賀状で知ることになる。「こんなに大きくなったんだと驚き、感激する。そういう報告を受けたときが至福のとき」と、しみじみ語る。
 
 息抜きは大学時代に始めたサッカー。13年12月に徳島ヴォルティスがJ1昇格を決めた試合を国立競技場で観戦するなど地元クラブへの愛情も深い。東京都シニアリーグ1部の東京ベイフットボールクラブに所属し、昨年は50歳以上の全国大会で3位に入った。「サイドバックなら左右どちらでもOK」と日焼けした顔をほころばせた。

 なかがわ・こうじ 徳島市出身。徳島文理高、自治医科大卒。徳島大医学部や県立中央病院での研修を経て、西祖谷山診療所や木沢村診療所などで地域医療に従事した。2002年に設立された国立成育医療研究センターの不妊診療科の立ち上げに関わり、6年間勤務。08年から民間の杉山産婦人科(東京都世田谷区)に勤めている。日本生殖医学会生殖医療専門医。同区在住。52歳。