美波町出身の書家小坂奇石(1901~91年)が創設した書道研究「璞(ぼく)社(しゃ)」(江口大象会長)は、約950人の会員からなる全国規模の団体だ。実務能力の高さを買われ、今年から副会長(2人)を務める。「小坂先生がつくった璞社を維持発展させ、会の運営をサポートしたい」と話す。
書道を本格的に始めたのは中学1年の時。書道部顧問に強く誘われ入部し、半年後には早くも県内書道展で上位入賞した。上達するにつれ面白くなり、高校在学時は書道の教諭から大学合格まで書道を封印するよう指導を受けるほど熱中。書家の道を模索した時期もあったが、大学卒業後は大手信託銀行へ入り、仕事の合間を縫って筆を執った。
「小坂先生の書は品質、格調が高い。これだけの書家は今後現れないだろう」。師匠のことを話せばとめどなく言葉があふれる。しかし、意外にも直接指導を受けたことは少ない。業務が多忙を極めた上、東京や熊本など全国の支店で働いたためだ。それでも書道研究誌「書源」への出品や大阪市内で開かれる審査会に参加するなどして関係を深めた。
「会合に参加しても先輩が多くいる中で話す機会などなかったが、あいさつすると『仕事頑張ってるか』などと声を掛けてくれた。徳島の孫として見ていてくれたのかな」と目を細める。
現在は自身の制作活動に加えて、12月に開かれる璞社書展の準備や図録の作成、その他出版の編集など会の実務を引き受ける。徳島へは月2回戻り、古里の美馬市で書道愛好家らに指導している。
「4年前に退職し、ようやく時間ができた。字を書くのは好きだし、人に教えるのも楽しい。自分の楽しみに時間を費やすほど幸せなことはないですね」。書家として生きる喜びに笑顔がはじけた。
さとう・ほうえつ 美馬市脇町出身。脇町高、早稲田大卒。1977年、小坂奇石に師事し、79年から璞社理事。日本書芸院評議員、読売書法会理事などを務める。本名は秀次。雅号は古里の高越山から取った。奈良県王寺町在住、66歳。