皇位継承の重要祭祀(さいし)「大嘗祭(だいじょうさい)」に調進される織物「麁服(あらたえ)」の材料になる麻づくりを担う三木家や、霊峰剣山を擁する美馬市木屋平地区。過疎化が進む山間地に、平家の落人伝説、清流を生かしたレジャー、食など、知る人ぞ知るスポットが点在する。穴吹川のせせらぎを耳にしながら車を走らせ、剣山から吹く爽やかな風を受けながら豊かな自然に身を置けば、日常を忘れて心身共にリフレッシュできる。
「大桜」と「れいわ」 鹿のジビエ料理提供
木屋平の中心、川井の周辺で食事や宿泊をするなら「つるぎの湯大桜」と「こやだいら観光ステーションれいわ」が便利だ。
両施設とも、地元で捕獲された鹿を使ったジビエ(野生鳥獣肉)料理を味わえる。一口カツ、ウインナー、カツカレーの3種類。一口カツは塩、コショウのみで味付けされ、しっかりした歯応えとあっさりした味わいに仕立てている。
放し飼いにして育てたニワトリが産んだ「高原たまご」の卵かけご飯、玉子丼なども堪能できる。「大桜」では「麁服」の麻を育てた畑で栽培したソバを使ったそば米汁「あらたえそば」もお薦めだ。
麻のストラップ、間伐材で作ったイヤリング、鹿の角のキーホルダー、鹿肉の甘露煮の缶詰などの土産品も目を引く。
両施設の三谷佐代子支配人(57)は「昼はれいわで食事や買い物、夜は大桜で風呂と宿泊を楽しんでほしい。山の中で空気も澄んでいるので、ゆっくりくつろいで」と呼び掛ける。
一口カツ定食1400円。そば米汁530円。大桜は月曜定休。平日午後1~8時。土日祝日午前11時~午後8時。食事は午後5~8時。れいわは午前10時半~午後4時半。
新型コロナウイルスの影響で大桜は5月1~5日は休業。れいわは5月5日までテークアウトのみ。問い合わせは大桜、電話0883(68)2424。れいわ、電話0883(68)2055。
木魚屋アメゴ養殖 5000匹の釣り堀整備
穴吹川に沿って国道438号を上流に向かい車を走らせ、川上カケ橋を渡って小道をたどると、木魚屋(もくぎょや)アメゴ養殖場に着く。約3千平方メートルの敷地にはサクラやケヤキ、モミジが植えられ、整備された広場の前に約800平方メートルのアメゴの釣り堀がある。
管理人の新谷洋子さん(65)は「日本一の清流で知られる穴吹川の支流、屋根又谷から引いた水で育っているから」と、アメゴの味に太鼓判を押す。
夫の美代治さん(69)=建設会社社長=が1989年に開業した。県内の業者から毎年10万個の卵を購入。養殖場でふ化し、約15センチに育つと釣り堀に移す。常時3千~5千匹が泳ぎ、40センチ近いものも交じる。
さお、餌、タオル、びくなどの釣り具一式をレンタルしており、手ぶらで釣りが楽しめる。餌を投げ入れてすぐに大群が寄ってくる。針に掛かると、さおにググッと感触が伝わり、水面に魚体が跳ねる。美代治さんは「剣山からの爽やかな風に吹かれながら糸を垂れてみて」と勧める。
子ども用に、つかみ取りができる池やバーベキューハウスも備え、釣ったその場でさばいて塩焼きにできる。テントを持ち込めばキャンプや飯ごう炊さんも楽しめる。釣り具レンタル500円。アメゴは、2500円の基本料金に釣った重量をかけた額で買い取る。リリース禁止。バーベキューハウス使用2千円。前日までに要予約。電話090(4784)3476。
森遠城跡 落人伝説に思いはせ
穴吹町から国道492号と438号を経由し剣山方面に車で約1時間。「森遠」の看板を目印にして山道を登った先に、森遠城跡(現八幡神社)はある。
源平合戦の折、平清盛の孫・平知経ら平家の落人が安徳天皇を伴って住まいの小屋を築いたのが始まりと伝わる。1993年の木屋平村勢要覧によると、合戦に備え平知経が内裏を城塞(じょうさい)化して「森遠城」と命名。自らも「小屋」と「平」を取って「小屋平」と名乗り、地名の由来になったとの説もあると記される。
木屋平地域づくり実行委員会の藤本高次会長(67)は「南北朝時代には南朝に付き、吉野の地まで戦いに赴いた。1648年に徳島藩2代藩主・蜂須賀忠英から50石の知行地を与えられ、松家の性に変わった」と説明する。
一国一城令の後、鎮守として跡地に八幡神社を建立。木屋平に縁のある忌部氏の祖神「天日鷲命(あめのひわしのみこと)」を祭る。神社では今も森遠城の痕跡が見られる。鳥居に続く石段は森遠城時代に整備され、鳥居付近が大手門だったことが分かっている。本丸跡には社殿が建ち、空堀跡や井戸が残る。
28代目と伝えられる松家繁信さん(66)は「自宅敷地内には京都の方を向いた四国をかたどった庭石もある。平家が京に帰る願望を残したのだろうが、地図のない時代に四国の型を作れたのが不思議」と話す。山中にひっそりと建つ神社と向き合うと、歴史のロマンが感じられる。
おお峰食堂 独自風味の中華そば
木屋平大北の川井峠付近に1軒の中華そば屋が店を構えている。荒川清太郎さん(63)、国枝さん(57)夫妻が営む「おお峰食堂」。元は清太郎さんの実家で営んでおり、十数年前に国枝さんの実家を改装してオープンした。
国枝さんは「田舎にうどんを食べられる店は結構あるが、中華そばの店は少ないと感じたから」と、こだわりを口にする。
中華そばは、国枝さんが以前の食堂の客から好みを聞き取り、しょうゆにみそを加えた独自の味付け。コショウも入れており、スパイシーな独特の風味が特徴だ。
季節限定商品もある。春の花見シーズンは、自宅の畑で取れたソバをひいた十割そば。秋は、木屋平で採れたマツタケが入ったうどん。他に、ワラビやイタドリが入った山菜うどんなど、さまざまな地元の味が楽しめる。
店舗の南側が開けており、窓や店舗前の国道438号から剣山山頂が望める。東宮山の登山口が近いこともあって、今年もゴールデンウイークには腹ごしらえに立ち寄る登山客の姿が見られそうだ。
中華そば、山菜うどん、焼き飯各600円。十割そば、マツタケうどん各800円。午前10時半~午後3時。電話090(3185)0786。