ドラムの高橋久美子さん(29)=愛媛県出身=が脱退した徳島発ロックバンドのチャットモンチー。現メンバーでの最後の公演が9月末、徳島市内で行われ、会場は満員の熱気で包まれた。高橋さんのラストライブの模様をリポートする。

 開演前、会場は普段とは違う熱気と緊張感に満ちていた。高橋さんのラストライブ会場は、3人が下積み時代から夢を紡いだ、クラブ・グラインドハウス(旧・徳島ジッターバグ)。デビュー後、目覚ましい活躍を見せるチャットモンチーが、米国公演後、まもなく登場したのもグラインドハウスだった。折に触れ立ち続けてきた小さなステージは、チャットモンチーの原点であり、成長も悩みも見守り続けた場所。ファンにとっても特別な思いがある。

 250人の観客が、ステージを見守る。ギター&ボーカルの橋本絵莉子さん(27)=徳島市出身=、ベースの福岡晃子さん(28)=同=、高橋さんの3人が笑顔で登場すると、悲鳴のような歓声と拍手が響き渡った。

 疾走感のあるナンバー「ヒラヒラヒラク秘密ノ扉」でライブがスタート。観客はこぶしを突き上げ、ジャンプする。開始直後から熱気は最高潮に。「懐かしい曲もどんどんやるよ」という言葉通り、「ウィークエンドのまぼろし」「惚たる蛍」「湯気」と初期の人気曲を奏でる。近年のライブでは演奏機会が減っていた、アマチュア時代に苦楽を共にした曲たちだ。

 中でも、高橋さん作詞の「サラバ青春」は、学校生活の思い出と、卒業を控えた切ない心情を表現した曲。橋本さんが高音でしっとりと歌い上げると、観客は高橋さんの“卒業”と重ね、静かに聴き入る。「ぐっと来ますね」と言葉を詰まらせた高橋さんは「みんなありがとう。ここに来られなかった人にもありがとうと伝えたい」。

 しんみりした気持ちを振り払うように一呼吸置いて「湿っぽい話はもう終わり! 元気ならどこかで会える」と笑顔。橋本さんが「これからも久美子は久美子、チャットモンチーはチャットモンチーなので、変わらぬ応援をよろしくお願いします」と話し、演奏を再開した。

 ステージ上の3人と観客が一体となり、熱気が渦となる。曲の合間、福岡さんがつぶやく。「脱退や解散するバンドのラストライブをたくさん見てきた。すごくいいライブをして去る人を見て、不思議だったけれど、今分かった。みんなと私たちの気持ちが一緒だからだ」。高橋さんとチャットモンチーの新たな門出を目に焼き付けようとする観客。3人はそのエネルギーを受け止め、全力疾走するように演奏した。

 最後は、デビュー曲「ハナノユメ」。徳島で生まれたこの曲から、3人の歴史が始まった。再び徳島からスタートを切る。名残惜しそうに、心から楽しむように奏でる1音1音に、それぞれの一歩を踏み出す力強い決意を感じた。

 すべての曲を演奏し終え、観客が見守る中、「クミコンの卒業式」を開催した。橋本さん、福岡さんから花束と「よく頑張ったで賞」のトロフィーを贈られた高橋さんが「みんなの健康とチャットモンチー、グラインドハウスのますますの発展を祈念して」と一本締め。涙はない。さわやかな笑顔でステージを去った。鳴りやまない手拍子と「久美子コール」が会場に響いたが、3人がステージに戻ることはなかった。

 ライブを見守った池川篤史さん(31)=京都市=は、デビュー前からのファン。「脱退を聞いたときは驚いたけれど、アットホームな雰囲気で送り出せてよかった。それぞれの道を歩んでほしい。変わらず応援したい」と話す。

 昨年、徳島でレコーディングしたCD「AwaCome」に参加した安田小響(さゆら)さん(26)=鳴門市=も駆けつけた。「レコーディングに参加した曲を聴いて、言葉にならない。最後まで3人のチャットモンチーとして楽しませてくれた。それぞれにやりたいことをやってほしいし、今後も驚かせてくれると期待している」と笑顔で話した。

 5年間、チャットモンチーを取材で追い続けて感じたのは、3人がバンド仲間である以上に、友人であり、姉妹のようでもあり、かけがえのない存在だということ。チャットモンチーの形は変わっても、3人の関係はこれからも変わらず、それぞれの道を走り続けていくのだろう。ラストライブの音色は、3人の新たな旅立ちを互いに祝福しているように感じた。
 
 (2011年10月9日朝刊掲載)