徳島発ガールズ3ピースロックバンド・チャットモンチーが、徳島をテーマにしたコンセプトミニアルバム「Awa Come」(アワ・カム)を10月27日にリリースする。全8曲を徳島のスタジオでレコーディングし、CDジャケットには阿波踊りの写真を使用するなど、3人の愛する“徳島”がたっぷり詰まっている。終了したばかりのレコーディングやビデオクリップ(プロモーションビデオ)撮影の様子をリポートする。

 チャットモンチーの新ミニアルバム「Awa Come」は、インディーズ時代に徳島で作った4曲と、1カ月間の徳島滞在中に制作した4曲の計8曲を収録。デビューミニアルバム「chatmonchy has come」以来の徳島生まれの曲だけで構成されたアルバムだ。

 1カ月に渡るレコーディングは、6月中旬、徳島市大松町のスタジオトリゴロでスタートした。約24畳のスタジオに、楽器や機材を搬入。高橋久美子さん(ドラム)と向き合うように、橋本絵莉子さん(ギター&ボーカル)、福岡晃子さん(ベース)がスタンバイして、互いの演奏や表情を確認しながらレコーディングを進めた。

 限られた時間。曲が完成してからアレンジに時間をかけ、録音に入るこれまでの制作スタイルと違い、曲作りとレコーディングは並行して行われる。さまざまなパターンの演奏を試しながら録音。作業は連日昼から夜中まで続いた。時折、窓から徳島の風景を見て、張り詰めた心をほぐした。

 これまで同様に、メンバーそれぞれが書いた詞に、橋本さんがメロディーを付け、3人で相談しながらアレンジする。阿波弁や、眉山、吉野川など徳島の地名を盛り込んだ歌詞など、新たな一面が見える曲も収録している。

 福岡さんが初めて作曲を手掛けた「セカンドプレゼント」や、橋本さんのギター弾き語り曲「また、近いうちに」も注目される。
 
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 アルバムのリード曲「ここだけの話」のビデオクリップの撮影は、残暑の厳しい8月、徳島市内を中心に2日間に渡って行われた。早朝から深夜まで、各所での撮影は休む暇なく続けられた。

 吉野川橋をドライブしたり、吉野川河川敷で歌ったり。夕暮れには徳島の街角を歩いた。「3人で顔を見合わせて」「川に石を投げて」など、監督からの指示に、メンバーは疲れも見せず笑顔で応えていた。

 新町川、吉野川、眉山・・・。なじみの風景の映像が、めまぐるしく変わるメロディーを彩る。遍路姿があったり、すだちくんが登場したり、メンバーの個別カットでは、徳島のご当地ネタも楽しめる。

 ミニアルバム初回盤には、特典としてビデオクリップとレコーディングの裏側を収めたDVDが付く。徳島の魅力を再発見できる一枚になりそうだ。

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 「徳島のみんなに喜んでもらえるかな」と何度も話していたメンバー。レコーディングやビデオクリップ撮影の合間で見せる、ワクワクしたような、いたずらっぽい表情が印象に残る。東京で積み重ねた経験をもとに、徳島で真っ白な気持ちで曲作りに臨んだ。リラックスした笑顔は、絶対にいいものができあがるという自信にあふれ、余裕すら感じた。楽曲だけでなく、制作中の表情一つ一つに、デビューまでの日々を過ごした徳島への愛着と感謝の気持ちが表れているようだ。新たな飛躍へのステップは、再び徳島からスタートする。

【後輩との協演楽しむ】

 メンバーの”徳島発“へのこだわりは、楽曲やビデオクリップの撮影にとどまらない。

 ミニアルバムに収録しているインディーズ時代の楽曲「あいかわらず」は、福岡さん、高橋さんの母校の鳴門教育大学の学生4人が、弦楽四重奏でレコーディングに参加。レコーディングでは高橋さんが指揮を行い、後輩との協演を楽しんだ。

 CDジャケットには、徳島市在住の写真家・上野照文さんが、一昨年の阿波踊りの写真を提供。昨年、阿波踊りを見るために徳島を訪れた高橋さんが、上野さんの個展「阿波の煌(きら)めき」で見た個性的な1枚を気に入り、提供を依頼した。

 メンバー3人が写った宣伝用のアーティスト写真も、板野町のあすたむらんど徳島で撮影。3人の徳島への強い思いが感じられる。

【デビュー5年目 3人の原点に戻る】

インタビュー

 「Awa Come」のレコーディングを終えた橋本さん、福岡さん、高橋さんに、ミニアルバムに込めた思いを聞いた。

 「全部“徳島生まれ”にこだわった。でも、徳島の皆さんだけじゃなく、全国のファンに楽しんでもらえるはず」と3人は笑顔で話す。

 徳島滞在中に書き上げた曲について、福岡さんは「できたてほやほやで、鮮度のある曲ばかり」と自信を見せる。インディーズ時代の4曲は「デビュー前にライブでよく演奏していたので、懐かしく感じてくれるんじゃないかな」と高橋さん。橋本さんは「曲を聴いて、徳島の風景や空気を感じて」と話す。

 レコーディングの約1カ月間について、橋本さんは「多忙な毎日だったが、徳島だと迷いがなくなってレコーディングに没頭できた」と力を込める。「生まれた場所は、自分が思う以上にパワーを秘めていると感じた。徳島に住んでいたころの空気を思い出して曲作りできた」(福岡さん)、「キャンプに行くような、ウキウキした気分でスタジオに通えた」(高橋さん)と、リラックスして音楽に集中できた様子。

 前作は、昨年3月発売のアルバム「告白」。1年半ぶりの新作リリースとなる。「一休みして、それぞれがやりたいことを出し合って活動していく意識が、より明確になった」

 “徳島発アルバム”の制作を決めたのは、活動再開後、最初の大仕事である3月の米国ツアーを成功させてから。「武道館ライブ、海外公演と、夢をかなえて、デビュー5年目を迎えた今こそ、原点に戻ろう」と“徳島発”のミニアルバムを思い付いた。

 「ただ初心に帰ったり、懐かしんだりするためじゃない」と話す3人。徳島での制作の意義を「成長していく過程で、さらに一回り大きくなれるチャンスだと感じた」からだという。

 レコーディング場所に選んだのは、デビューのきっかけになった自主制作盤「チャットモンチーになりたい」(2004年)と同じ、スタジオトリゴロ。当時と同じエンジニアと一緒に作業を進めた。「あのころは演奏も下手で、エンジニアさんの指示にうまく応えられなかった。今は対等に、一緒にいいものを作り上げようと相談できる。成長を見てもらえたかな」

 駆け抜けるように過ごした、デビューから4年間の東京での日々。「徳島の自然に触れながら自分と向き合うことで、新しい音、試みが出せるようになった」と成果を強調した。

 (2010年8月25日朝刊掲載)