夢の舞台に立った! 徳島発の3ピースロックバンド「チャットモンチー」が、3月31日と4月1日の2日間、初の日本武道館(東京)ライブ「チャットモンチーすごい2日間in日本武道館」を開催した。メジャーデビューから2年4カ月での武道館ライブは、女性ロックバンド史上最短の快挙。デビュー曲「ハナノユメ」から2月発売の最新シングル「ヒラヒラヒラク秘密ノ扉」、初夏に発表予定の「風吹けば恋」まで、アンコールを含め21曲を力いっぱい演奏した。「風吹けば恋」はテレビコマーシャルへの起用も決定するなど、さらなる飛躍を見せるチャットモンチー。3人の演奏に2日間で1万6000人の観客が揺れたライブの模様を、写真とインタビューでリポートする。
場内の一角でどよめきが起こると同時に、1本の透明なスポットライトがアリーナ席後方に3人をとらえた。客席の通路を、もみくちゃにされながらステージに進む3人は、Tシャツにパンツスタイルという普段のライブと変わらない姿。しかし、その彼女たちが立ったステージは走り回れるほどに広く、後方には一人一人を映し出す巨大な3枚のスクリーン、場内は歓声がこだまのように響く。あらためて日本武道館の広さを感じる。客席から登場する演出は、3階席までびっしりと埋まった8000人との距離を一気になくしたいとの願いから生まれたのだろう。
「薄い紙で指を切って赤い赤い血が滲(にじ)む・・・」。橋本絵莉子さんの透明感のある声が響き渡る。高橋久美子さん作詞、橋本さん作曲のデビュー曲「ハナノユメ」。切ない心情を抽象的な言葉で表現した詞を力強いリズムで歌い上げ、観客を一気に“チャットモンチー・ワールド”に引き込み、「ツマサキ」「DEMO、恋はサーカス」と続けた。
ふと、これらの曲がすべて、デビューミニアルバムの収録曲だと気付いた。“夢の武道館ライブ”をデビュー時の曲でスタートさせたことに、彼女たちの強いこだわりを感じた。
その理由を、福岡晃子さんがライブの中盤、ステージの上から観客に話した。「オープニングの数曲はデビュー前に作った曲。『いつかたくさんの人に聴いてもらいたい』と思って演奏してきた。最高の舞台で、これほど多くの皆さんに聴いてもらえて、曲も喜んでいると思う」
福岡さんは、徳島市内のライブハウスで活動していたアマチュア時代のエピソードも披露した。「観客が2人のことも。このライブハウスをお客さんでいっぱいにしたいと思った」
阿波弁で淡々と話す福岡さんの言葉には、あこがれの舞台に立った達成感だけではない深い思いが感じられる。会場からひときわ大きな拍手が起きた。徳島での無名時代から現在まで、3人で支え合いステージに立ち続けてきた彼女たちの歩みを思い、私は胸が熱くなった。
生き生きとしたボーカルで聴かせるバラードから、重厚で疾走感あふれるナンバーまで、アンコールを含めて21曲、全力投球だ。3人だけで紡ぎ出す音はシンプルだが力強く、体の奥を揺さぶる。
8000人が体でリズムを刻み声援を送る。観客が両手を挙げてコーラスに参加した曲も。色とりどりの長いスポットライトに浮かび上がる3人は、笑顔で何度も視線を交わした。その表情には観客と一体になった充実感があふれていた。
「このメンバーでこのステージに立ててよかった。これからも3人でやっていく」と声をそろえた3人。気負いはない。武道館は通過点だ。
【インタビュー】「感動・・・最高に楽しかった」
-武道館ライブを終えた感想を。
3人 夢のような2日間でした。今も夢の中の出来事のようにぼんやりしています。でも、充実感が残っているから現実なんだなって・・・。素直に感動しました。最高に楽しかった!
-特に印象に残ったこと、うれしかったことは。
晃子・久美子 3人だけで武道館のステージに立てたことです。
絵莉子 お客さんがみんな温かかった。こんなに温かさに包まれていることが分かるステージは初めて。
久美子 家族や友人が遠くから来てくれたこともうれしかったですね。
-ライブ直前の心境は。
絵莉子 楽しむことしか考えていませんでした。何度も立てるステージではないから。ステージから満員の客席を見て、いい曲をいっぱい聴いてもらいたいと思いました。
晃子 堂々とやることだけを考えました。実際にステージに立ったら、お客さんの優しさに包まれていい演奏ができました。
久美子 経験したことのない緊張感。紛らわそうとふざけて、2人に心配されました(笑)。ステージに立ったら3人だけの空気が流れ、これは最高に楽しい風が吹いてきた! やれる! と思いました。
-自分の中で何か変わったことはありますか。
絵莉子 ライブはいつもかなり緊張しますが、怖いものではないと分かりました。どんな大きなステージでも安心して臨めそう。
晃子 武道館という特別な会場も、ロックバンドに優しい場所だと分かりました。ライブハウスでのライブも変わると思います。
久美子 音楽をやっていく上で自信になると思います。より多くの人に届けようという意識にもつながっていくと思います。
-読者へメッセージを。
3人 徳島の皆さんの愛情で育った私たちです。変わらず温かい場所でいてください。アマチュア時代を支えてくれたことを忘れず頑張っていきます。もちろん帰省もします。徳島でライブをするときはぜひ遊びに来てください。応援よろしくお願いします。
(2008年4月13日朝刊掲載)