那賀川の上空をこいのぼりが泳ぐ「加茂谷鯉まつり」=2019年5月、阿南市深瀬町

会場近くの倉庫に眠るこいのぼりを手にする中田委員長=阿南市加茂町野上

 那賀川の両岸にワイヤロープを渡し、約300匹のこいのぼりが清流の上空を悠々と泳ぐ。徳島県阿南市深瀬町の那賀川河川敷で毎年5月の大型連休中に開かれる「加茂谷鯉まつり」(実行委主催)は、その美しい光景を一目見ようと、人口減少が進む中山間地域に約4千人が訪れる。

 1989年に地元有志の発案で始まり、知名度を高めながら2018年に節目の30回を迎えた。しかし翌19年、台風の影響で河川敷に土砂が堆積し、餅投げや遊覧船などのイベントが中止に。さらに20、21年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、こいのぼりを飾るのも見送った。

 3年間もの空白期間が生まれたことで、実行委員のモチベーションに陰りが見える。中心メンバーの高齢化で次第に負担が大きくなり、一部からは「開催に区切りを付けてもよいのでは」という声も上がる。それでも、再開に向けたメンバーの思いを支えるのは、鯉まつりを通じた地域再生への希望だ。

 近年は、こいのぼりの飾り付けに地区の中学生も携わる。幼稚園や小学校の児童・園児の手作りこいのぼりも展示するなど、イベントは世代を超えた絆を生んだ。加茂谷に定着した鯉まつりによって山あいに響く歓声は、町の人々の胸に深く刻まれている。

 実行委員長を務める中田泰之さん(57)=水井町西、鉄工業=は「地域が結束するためには一番いいイベントだと思う。従来のような形は難しいかもしれないが、時代に応じた新しい鯉まつりを模索していきたい」と話す。

 会場近くの倉庫では今年、約500匹のこいのぼりが眠ったままだ。地域の思いや願いがこもったこいのぼりは、再び大空を舞う日を待っている。