他人の犯罪を明らかにする見返りに、起訴を見送ったり求刑を軽くしたりする司法取引が6月に導入される。

 組織犯罪の解明へ捜査の強力な武器になると期待される一方、うその供述によって冤罪を生む可能性が高まる。刑事司法の大きな転換点である。厳格かつ慎重に運用しなければならない。

 犯罪の証拠を集める手法を広げる狙いがあり、2016年成立の改正刑事訴訟法に盛り込まれた。米国のように自らの犯罪を認めて見返りを得る仕組みはなく、日本版司法取引とも呼ばれる。

 事件の共犯者らの犯罪を解明するために、容疑者・被告が捜査当局に供述や証拠提出といった協力をすれば、<1>起訴の見送り<2>起訴の取り消し<3>より軽い罪での起訴<4>より軽い求刑―などができる。

 対象犯罪は薬物・銃器関連や組織的詐欺、贈収賄のほか、脱税、独占禁止法、金融商品取引法といった財政経済犯罪である。殺人や性犯罪は含まれていない。

 薬物の密売や振り込め詐欺の捜査は、末端の実行犯を捕まえても首謀者にたどり着くのが容易ではない。企業ぐるみの犯罪でも上層部の関与を立証するための供述が得られないケースは多い。

 事件の背景にある大きな悪にメスを入れ、全容解明につながるのであれば大きな意義がある。司法取引の導入は犯罪の抑止効果にとどまらず、企業風土の見直しにつながるとの見方もある。

 もちろん乱用は許されない。日本の刑事司法は自白偏重が指摘されてきた。懸念されるのは、自分が罪を逃れるために虚偽の供述をして、共犯者に責任転嫁したり無実の人を巻き込んだりする恐れが強いことだ。

 このため容疑者・被告と検察官が司法取引で合意するには、弁護人が協議に立ち会い、同意する必要がある。虚偽の供述には5年以下の懲役が科せられる。

 捜査当局が供述の裏付けや証拠収集に全力を尽くさなければならないのは当然だ。事後の検証も行われるよう、協議の透明性を確保して詳細な記録を残すべきである。

 捜査、弁護、裁判を担う法曹三者は運用状況を把握し、供述の信用性の判断や事実認定、量刑判断が適正になされているかを分析することが欠かせない。制度の改善に向けて議論を深めてほしい。

 最高検は、地検が司法取引を行う際、当面は高検検事長が指揮し、高検も最高検と協議する方針を通達した。警察庁も犯罪捜査規範を改正し、警察官が検察官に代わって取引で供述を求める場合は「警察本部長の指揮を受けなければならない」とした。

 司法取引の導入は、厚生労働省元局長の無罪が確定した文書偽造事件をきっかけに議論された捜査・公判改革の一環である。刑事司法の信頼を回復するためには、広く国民の理解を得ながら進めなければならない。