料理が出来あがる様子を目の前で見られるのがカウンター席の醍醐味。梅津さんの朗らかな人柄を介して、たまたまカウンター席に並んだお客さん同士も一つになる。

本料理の奥深さや新しさを発信する梅津さん。「自分と同世代の若い方にも気軽に足を運んでもらえるようなイベントも企画していきたいです」と意気込む。

強肴 イカとアスパラの天ぷらを濃厚なホタルイカのソースで堪能。うるいのおひたしが瑞々しく、より春を強調する。

店を持つ、ということ。
店舗を作り、インフラを整え、メニューや料金を決める。
どうすれば集客につながるか、
来てくれた人に喜んでもらえることは何か。
頭を悩ませ、アイデアを実行に移していく。
決定権は自分にあり、その責任も負う。
二十代で店主という道を選んだ人たちを訪ねた。

日本料理 季季 梅津克季さん(29・徳島市出身)

 20代最後の年、藍住町に日本料理店をオープンさせた梅津さん。門構えからして重厚感のある平屋の日本家屋を、シンプルな和の空間へとリノベーション。真新しいL字カウンターの向こうで、梅津さんはにこやかにお客を迎える。カウンターの高さに合わせてまな板を設えてあり、お客との会話を楽しみながら、先付からデザートに至る9品を目の前で作りだす。

 サッカーに夢中だった高校生活を終え、京都調理師専門学校へ進んで料理の基礎を学んだ。卒業後は京都の老舗料亭で2年半、くずし割烹の名店と、その支店のパリ店で合わせて3年間修業した。次に勤めた金沢の和食店では、店の定休日に自らが考案したコース料理を提供するイベント「ぐわし会」を毎月開催。伝統的な京料理と、和食の軸を守りつつも斬新に発展させたくずし割烹の両方を盛り込んだ料理は徐々に話題を呼んだ。「毎月、インスタグラムで告知していました。10名限定でしたが、最初は知り合いがおらず集客に苦労しました。でも1年間続けたら、ラストの会は満席になって、時間をずらして1日に2回開催できたんです」と声を弾ませる。金沢では1年半過ごしたが、ぐわし会のためにたくさん器を収集したことも良き思い出だ。

 2019年6月に帰郷し、8月からは父親が営む民宿喜楽(徳島市)で引き続き「ぐわし会」を開くようになった。金沢では7品3500円のコースが好評だったが、徳島では受け入れられなかった。先付を無くして前菜からスタートしたり、魚と肉のダブルメインにしたり、品数や料理の構成、出す順番をあれこれ検討。9品4400円のコースを出したときにリピート客が増えはじめ、ようやく手応えを感じた。

 また知名度を上げるため、2020年2月からはトモニSunSunマーケットやとくしまマルシェに出店した。カボチャやゴボウ、ブロッコリーなどの野菜のソースで味わうおでんを販売したところ大ヒット。「ソースは野菜を素揚げして、出汁やみりん、薄口醤油で作ります。手間ひまかけることをモットーにしているので、おでんならそれが表現できるって思ったんです」。

 季季のメニューは会席コース(4400円/19時一斉スタート/要予約)のみ。献立は毎月変わり、その都度テーマが設定される。取材に訪れた3月の献立のテーマは「二が一となる」。一品ごとにメインとなる食材を2種組み合わせ、二つで一つの新しい味が生まれるというものだ。

 「椀」を例に挙げると、菜の花の苦みを残した胡麻豆腐と、揚げ雑魚の山椒和えが主役。一口目は出汁のおいしさがダイレクトに伝わるが、二口、三口と食べるうちに菜の花の苦みや、ぶぶあられの香ばしさ、三つ葉の香りや食感のアクセントも加わる。そして汁を飲みきる直前、底に沈んだ雑魚山椒の芳しい風味が顔を出す。それに驚く様子を見て、「面白い結末でしょう」と梅津さんがにんまり。料理にはじわっとくるサプライズを意識していると言う。

 頭の中でレシピを作り、一回食べてみて、おいしい !となったら文面に起こし、形にする。完成したコース料理は妻の美穂さんと椅子に座ってゆっくり試食し、味の濃さ、量のバランス、出す順番などを確認する。

 「おいしいのは当たり前で、食事はやっぱり楽しくないとね」と、店のコンセプトをさりげなく話す梅津さん。「食材の組み合わせ方や僕らとの会話に面白かった !となってもらえたら最高です」。

 季季でしか食べられないという特別感を極めるべく、デザートまで凝った会席。食べ終わったらすぐ、新しい月の料理が待ち遠しくなる。

住所=徳島県藍住町東中富長江傍示4-6
090-8197-0976(要予約/4月、5月は予約で満席。6月以降の予約が可能)
営業時間=19:00〜22:00(開店は18:30)
定休日=水曜休、不定休あり

駐車場:あり
※県道14号線沿い、徳島大正銀行ATM敷地内に5台
完全個室:あり
多機能トイレ:なし
座敷席:あり
Wi-Fi:なし
開店:2020年12月