ハンセン病患者に対する国の隔離政策を憲法違反と判断した熊本地裁判決から、きょうで20年となる。

 元患者は裁判長への敬意を込め、今も「杉山判決」と呼ぶ。判決の意義を改めて考え、著しい人権侵害の歴史を繰り返さないという決意を新たにしたい。

 ハンセン病はらい菌による慢性疾患で、感染力は弱く致死率も低い。戦後に特効薬が開発され、患者の隔離は不要だったのに、国は隔離政策を継続。らい予防法が廃止される1996年まで続けた。

 断種や妊娠中絶を強要された入所者もいる。隔離の継続によって「恐ろしい伝染病」との誤った認識が定着し、元患者や家族に深刻な被害をもたらした。杉山判決は、こうした人道にもとる問題の解決を国が怠ったと指弾したのである。

 判決後、元患者の名誉回復措置などを定めたハンセン病問題基本法が成立した。差別による家族への被害を認める判決も一昨年に確定し、国が謝罪している。何より、地域住民らと元患者との交流が急速に深まったのは最大の成果だ。

 人権侵害の教訓は生かされているだろうか。残念ながら道半ばと言わざるを得ない。新型コロナウイルス禍でくしくも露見した。

 コロナに感染した人やその家族が陰湿な嫌がらせを受けたほか、治療に当たる医療従事者にも誹謗(ひぼう)中傷が向けられるなど、ハンセン病を巡る差別と重なる事例が各地で相次いだ。

 ハンセン病の患者と家族を追い詰めたのも地域住民だったことを、忘れてはならない。今こそ冷静に、一人一人が意識して人権と向き合う必要がある。

 もう一つ大切なのは、全国13療養所の今後だ。

 全体の入所者は多いときで1万人を超えていたが、今年3月末時点で約千人に減っている。平均年齢は80代後半と高齢化が進み、近い将来の施設の存廃という課題に直面している。

 敷地内に保育所や高齢者施設を新設して存続を図る動きもあるが、徳島県関係の元患者が今も十数人暮らす高松市の大島青松園は離島のため活用が難しいとされる。市や香川県が定めた地域振興計画などにも具体像は示されていない。

 青松園は3年ごとに開かれる瀬戸内国際芸術祭の会場になっている。2年前の前回は1万2千人が訪れ、ハンセン病の史実を初めて知った人も多かったという。アートを通じて歴史を語り継ぐという取り組みで永続化を目指すのは、検討に値するのではないか。

 終生穏やかに過ごすことと、歴史を風化させないことは元患者の願いである。国や関係自治体は環境整備に努めなければならない。