緊急事態宣言は、感染拡大を食い止める切り札としての効力を失いつつある。政府は1都3府県への宣言を5月末まで延長、福岡、愛知両県も追加したが、だらだら感は否めない。

 人間の我慢には限度がある。1年以上も緊張と不自由を強いられれば、徐々に辛抱が切れていく。

 要請に応じて百貨店が休業すれば、小さな店に客が集中する。居酒屋が店を閉じれば、路上や自宅で飲み会が始まる。まさに、いたちごっこ。危機感の共有という宣言の前提条件が崩れているのだ。

 変異株が猛威を振るい、重症者数は日々更新されている。菅義偉首相はなぜ、目の前にある危機をもっと訴えないのだろうか。

 インド株の脅威にも、一層身構えるべきだ。「新たな闘いが始まった」と警告する専門家も多い中、リーダーの必死さが国民に届いていない。

 「医療大国」の看板はすっかり色あせた。自宅や施設で亡くなる人々が相次ぐ事態に、為政者として心が痛まないのだろうか。

 一人一人の死には、数字で表現できない悲劇がある。「人流は抑制された」などと自画自賛している場合ではないのだ。

 その一方で、ワクチン接種については「1日100万回接種」「高齢者は7月末に完了」と明快に言い切った。

 言葉通り実現しても、ワクチンが全国民に行き渡るまでには、長い時間を要する。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置など、既存の対策の実効性を高めていく努力は、これからも重要ではないか。

 感染リスクを減らす「急所」についても、再点検が必要だ。

 この1年余り、換気設備を整えるなど、感染防止に取り組んできた事業者は多い。「人流抑制」を理由に一律に休業を求められては、不信感が募るのは当たり前だ。もう協力できないと、要請に応じない業者も続出するだろう。

 しかし、首相の頭には、ワクチンしかないようだ。今後2カ月半で3600万人に2回の接種を完了するという。防衛省・自衛隊や総務省も動員し、総掛かり体制を組んだ。

 至難の大事業に思える。「7月末」と自ら退路を断つ意図が分からない。どうやったら実現できるのか、根拠も不十分だ。

 楽観的見通しは、不信と不安を深める。予約の電話やネットがパンク状態となるのは、その表れだろう。

 約束した以上、後戻りはできない。国民の信頼を取り戻すには、やり遂げるしか道はない。