デジタル技術の進展で、これまで紙に印刷するなどして保存されていた情報がデジタルアーカイブ化できるようになった。誰もがアクセスできる集積された知は、新たな知やアイデアを生むことを促す。建築という立体物をデジタルアーカイブする意味とは何だろう。鳴門市民会館のアーカイブ映像の制作を担当した「神山アーカイブレコード」の橋本敏和さん(38)=徳島市=に聞いた。

⇨ 鳴門市民会館のアーカイブ映像公開 59年の歴史振り返る 

映像アーカイブを手掛ける「神山アーカイブレコード」の橋本さん

-市民会館の写真のスライドショーから始まりますが、成人式や聖火リレーなどさまざまな行事が開かれてきたことが分かります。

 市が所蔵する写真や市民らから寄せられた写真のうち1000枚あまりをスキャンし、うち60枚ほどを映像で紹介しています。4Kよりも高画質なのでパソコンのフルスクリーンなど大きな画面で見ると、行事に参加している人の顔だけでなく、どんな髪型や服装をしているかも分かります。

-最後の内部公開の機会として、市民会館内で昨年10~11月に開いたアーカイブ展でも、行事の写真を食い入るように見て、自分や知人を見つける市民の姿が印象的でした。

 建築だけを映像化するというのもひとつの方法だけれど、増田友也は「市民に喜んでもらえるものを」と考えて市民会館をつくった。だから、ここにいる市民の姿も含めて記録したいと考えました。

-各地でモダニズム建築が解体されている今、デジタルアーカイブの役割をどう捉えていますか。

 本当は現物が残っているのがいい。例えばVR技術を使えば、仮想的にそこにいるような体験もできるけれど、空気や風、光の感じまでは再現できません。「体験」っていろんな要素が複雑に混じり合ったもので、デジタル技術で再現できるのはそのほんの一部。「デジタルで世界が変わる」という風に語る人もいますけど、いやいや、と。

 現実と映像は全くの別物。そもそも59年の歴史を20分にまとめるのが不可能。ただ、デジタル技術で残せる情報がある。それはちゃんとやっていくべきだろうと思います。

 鳴門市は市民会館の3次元点群データも取っています。図面と実物を見比べると、異なる部分がある。だから実物の点群データを取っておかないと、情報として残っていきません。手で計測したら膨大な労力がかかることが、デジタル化でレーザーを当てることで可能になる時代になっています。

夕暮れ時の鳴門市民会館。デジタルアーカイブでで残せるものと残せないものがある

-かつて京都大の増田研究室で学んだ方は、壊されるからアーカイブをするのではなく、建築が現存中にすればいいと話していました。一般の人はその建築がどんな思想の下でつくられたかなどを知る機会がない。

 賛成です。壊されるからアーカイブをするというのでは寂しい。現存する建築をもっと知る、例えばバーチャルで体験する目的などで、アーカイブをつくりたいですね。

-デジタル化で手に入る情報の量はぐんと増えました。でも日々、デジタルの海の表面に漂う情報にしか手が届いていない気がします。

 デジタル情報の良さはアクセス性の良さ。いつでも誰でも、アクセスできる。でも、そういう状態にするにはとても地味な作業が必要。例えば写真をデジタル化するなら、何をいつどこで撮影したかなどのメタ情報をきちんと入れないと検索できるデータベースにならない。時間も労力もかかりますが、こうしてつくられるアーカイブがないと、過去のものと出合えなくなってしまう。SNS上ではたくさんの情報が流れるけれど、多くは一過性。きちんと情報を整理して、アーカイブ化していくことが大切です。

 

橋本敏和(はしもと・としかず) 1982年、東京都生まれ。日本大芸術学部で映像制作を学び、図書館司書などを経て2016年、神山町の映像関連企業に就職。18年、同僚と独立し、映像アーカイブを手掛ける「一般社団法人神山アーカイブレコード」を設立。