初代天狗久の旧工房や道具類を公開している「天狗久資料館」=徳島市国府町和田

 名人とうたわれた人形師・初代天狗久(1858~1943年)の旧工房を保存・公開しているのが、徳島市国府町和田の「天狗久資料館」だ。一歩足を踏み入れれば、この地で明治、大正、昭和と人形浄瑠璃芝居の木偶(頭)作りに一生を賭した男の息遣いが聞こえてくるようだ。

 旧工房は旧伊予街道に面して立ち、築150年ほど。看板には「世界一」の文字が誇らしげに躍る。近所に工房を構えた人形忠(通称・デコ忠)が「皇国無類人形細工師」を名乗ったのに対抗し、「世界一」の看板を掲げたと伝わる。

 彫刻刀や筆といった道具類、完成した頭などを展示しており、これらの用具・製品1158点は国の重要有形民俗文化財に指定されている。

 奥の座敷では、41年製作の文化映画『阿波の木偶』(約15分)が鑑賞できる。驚くことに、亡くなる2年前の“動く天狗久”が見られるのだ。角目頭(熊谷次郎直実)を新たに作る貴重な映像で、荒彫り、からくり仕掛け作り、胡粉(ごふん)を使った塗りといった一連の作業や、インタビューに答える様子が克明に記録されている。

 近くの上鮎喰橋のたもとには顕彰碑もあり、宇野千代の小説『人形師天狗屋久吉』からの一節が碑文に刻まれている。

〈2021・6・3〉