2020年6月、あおり運転の厳罰化を盛り込んだ改正道路交通法が施行された。あおり運転を「妨害運転」と規定し、車間距離不保持や急な車線変更など10の行為が対象となった。徳島県内では昨年、前方の走行車に対してクラクションを鳴らし続け、危険な追い越しをしたとして、徳島市の男性会社員があおり運転で初摘発された。県警にはあおり運転の被害にあったとの通報が多く寄せられているという。4月から就職や進学などで環境が変わり、慣れない運転に奮闘している人もいるだろう。無意識のうちにあおり運転をしていないだろうか。県警交通機動隊の協力を得て、あおり運転を再現。犯罪心理学に詳しい四国大の高村茂教授にあおり運転に至る心理などを聞いた(※末尾に動画あり)。 

あおり運転の再現シーン=県運転免許センター

 

あおり運転とは 即日免許取り消し

 他の車両などの通行を妨害する目的で一定の違反をした場合、交通の危険の恐れがあるあおり運転として、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる。違反点数は25点で即日免許取り消しとなり、2年間は再取得できない。さらに、そのあおり運転によって高速道路上で他の車を停車させるなど「著しい交通の危険」が生じた場合は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金、免許の欠格期間は3年となる。いずれも前歴や累積違反点数がある場合は延長される。道交法上、あおり運転は自転車にも適用される。

 

 対象は10類型 県内では「車間距離不保持」が大半

 あおり運転は「通行区分違反」「急ブレーキ禁止違反」「車間距離不保持」「進路変更禁止違反」「追越し違反」「減光等義務違反」「警音器使用制限違反」「安全運転義務違反」「最低速度違反(高速自動車道)」「高速自動車国道等駐停車違反」の10類型に分けられる。県警交通企画課によると、改正道交法が施行された20年6月30日から21年4月末までで、あおり運転に関する110番通報件数は346件あり、このうち約4割に当たる147件が車間距離不保持だった。この他、署や交番に直接寄せられた相談は117件。あおり運転に該当する道交法違反の摘発は143件に上り、8割以上の119件が通行区分違反だった。

 

交通機動隊の協力を得てあおり運転を再現

打ち合わせをする交通機動隊員ら=松茂町の県運転免許センター

 具体的にどういう行為があおり運転になるのか。松茂町にある県運転免許センターで県警交通機動隊に再現してもらった(詳細は末尾の動画参照)。

 

110番通報が多い「車間距離不保持」

 車間距離不保持には、明確にどれぐらい間隔を空けなければいけないという決まりはない。交通指導課の兼市望課長補佐は「前の車が急停止しても対応できる距離が妥当」と説明する。あおり運転は距離を詰めながらクラクションを鳴らし蛇行運転するなど、複合的に行われることが多いという。

蛇行して進路を阻む走行車=松茂町の県運転免許センター

 対向車線にはみ出したり、逆走したりした場合は通行区分違反。事故などを避ける目的以外に、不必要に車を急停車したり、急激に減速したりするのは急ブレーキ禁止違反に当たる。

 夜間はハイビームを利用するのが基本だが、対向車が通る際にロービームに切り替えなかったりパッシングを行ったりすると減光等義務違反になる。執拗(しつよう)にクラクションを鳴らした場合は、警音器使用制限違反。よそ見や手放しでの運転、居眠りなどが原因で幅寄せや蛇行をしてしまい、安全運転義務違反に当たる場合もあるので気を付けたい。

 

県警交通指導課の兼市望課長補佐

 このほか、高速道路上などで駐停車したり、最低速度以下でゆっくり走行したりするのも違反に当たり、あおり運転と判断される可能性もある。兼市課長補佐は「あおり運転は犯罪。ゆとりを持った運転を心がけてほしい」と呼び掛けている。

 

あおりの心理とは

 あおり運転をしてしまう心理などについて、元県警科学捜査研究所専門研究員の高村茂四国大教授=生活科学部人間生活科学科公認心理師コース=に話を聞いた。

犯罪心理学に詳しい高村茂教授=徳島市の四国大

 

攻撃性+制御障害  他罰性も引き金に

 あおり運転に走りやすい人の特徴などはあるのだろうか。高村教授によると、あおり運転をしてしまうのは本来、攻撃性が高い人だという。ただ、そういう人はいくらでもいる。「私自身もそう。攻撃性が高い人は真面目でせっかち、活動的といった面がある。それらはもちろん悪いことではなく、そこに衝動をコントロールできない“制御障害”が加わると、あおり運転に至ってしまう場合がある」と説明する。車という空間の中にいて匿名性が高いことも、「ちょっとぐらいしても分からないだろう」という心理を生じさせ、あおり運転につながる要因の1つになるという。「車は自分の意のままに動くツールとしての武器。ゲーム感覚に近いのではないだろうか。悪いことだと思っているが、やっていくうちにのめり込んでいく」と推察する。

 他罰性の傾向が強い人は、無自覚であおり運転をしているかもしれない。「他罰性とは、例えばテストの成績が悪かったら、自分ではなくテストを出した先生が悪いと考えること。道で割り込まれたりすると、割り込んだ相手が悪い、だから懲らしめてやろうと考える。こういう場合は、あおり運転をしている自覚がないことも考えられる」という。

 

あおり運転の被害に遭ったら? 動画撮影はかえって刺激する可能性も

 自分が安全運転をしていても、理不尽にあおられることもある。高村教授は「被害に遭った場合は、まず安全な場所に避難すること。高速道路だとパーキングエリアとか人のいる所に逃げる。そして110番通報をする。ナンバープレートも控えておくと良い。相手が車から降りて近づいてきても、車内から出ないように」とアドバイスする。動画はあおり運転の証拠として有効だが、「自分で動画を撮ると相手をあおってしまう恐れもあるので、素人には勧められない。ドライブレコーダーを設置している場合は、設置を示すステッカーを貼るといい」と話す。

 

あおり運転 どうやったらやめられる?

 あおり運転を繰り返してしまう人は、ギャンブル依存症やアルコール中毒などのようにアディクション(嗜癖=しへき)になっている可能性があると指摘する。買い物やギャンブル、ゲーム依存などと同様に行為依存に当たり、嗜癖にのめり込んでいる時は脳から快楽につながる神経伝達物質のドーパミンが出て、行動が強化される。どうしてもやめられない場合、認知行動療法やアンガーマネジメントなどの専門的な治療が必要になってくるという。高村教授は「あおり運転は、とにかく損なんだと。快感より罰の方が大きい。損だと理解すること。あおり運転をしたくなった時は頭に血が上ってカーッとなっている状態なので、水を飲んだり、一時停止したり、自分を律する行動を取ってほしい」とアドバイスした。

 

 

 新聞などのニュースを見ていると、「注意されてむかついた」「追い抜かれて腹が立った」などとささいなきっかけで始まることが多いあおり運転だが、17年の東名高速夫婦死亡事故など重大事故につながる例が後を絶たない。取り返しのつかないことになる前にいま一度、自分の運転を見直したい。

【動画はこちら】https://youtu.be/aOdNMgwjkfg