建設現場でのアスベスト(石綿)被害の深刻さは分かっていたのに、なぜもっと早く救済に動けなかったのか。国は判決を重く受け止め、被害者を広く迅速に救済する仕組みを設けるべきである。

 建材に含まれた石綿の粉じんを吸い込み、肺がんや中皮腫などの病気になった元労働者と遺族が損害賠償を求めた4件の集団訴訟の上告審で、最高裁は国と一部建材メーカーの責任を認める判決を言い渡した。

 石綿は安価で耐火性に優れ、1950年代から断熱材や吹き付け材に広く使われた。一方で、粉じんを吸い込んだ場合の危険性も60年代から指摘された。

 判決は、国が75年に石綿の規制を強化したのに、法令で使用をほぼ禁じる2004年まで、作業員の防じんマスク着用を義務付ける規制などを怠った点を「著しく合理性を欠き、違法」と断じた。当然だろう。

 雇用された労働者でない「一人親方」も危険な現場にいたのは同じであり、救済を認めたのは妥当だ。

 国の規制は欧米に比べて大幅に遅れた。その間、作業員は危険性を知らされず病気になって死亡した人も多い。被害を拡大させた国の責任は大きい。菅義偉首相が原告団に謝罪したのは遅きに失したと言える。

 建材メーカーの責任も重い。作業員は複数の現場を渡り歩くため、原因がどこのメーカーの建材か特定するのは難しいが、判決は共同不法行為が成立するとし、メーカーの連帯責任を認めた。被害者救済に向けた判断と評価できる。

 判決を受け、政府は被害者の病状に応じ1人当たり550万~1300万円の和解金を国が払う統一和解基準を原告に示し、合意した。国は、今回の原告約500人を含む全国の約1200人と和解を目指す。

 訴訟を起こしていない被害者にも同額の給付金を支給する基金をつくる。建設現場の被害者は国の認定だけで約1万人いるとされ、補償を急ぎたい。

 一方、建材メーカーが基金などに負担する額の調整がついていない。各社の責任割合が決めにくいなどの事情がある。とはいえ、メーカー側にも石綿で健康被害を招いた責任がある。国とメーカーは協議を急がねばならない。

 「静かな時限爆弾」と呼ばれる石綿被害の潜伏期間は15~40年と長く、発症したら重症というケースも少なくない。石綿を使った民間の建物は全国で約280万棟あり、今後、解体時期を迎える。新たな被害が発生する懸念もあり、幅広い救済制度が求められる。

 徳島県内にも被害者がいる。救済の手を確実に差し伸べる支援が大切だ。