4月下旬、新型コロナウイルスに感染した徳島市の80代男性の家族は、医師の言葉に驚いた。
「もし急変しても、重症者用の病院はいっぱいで転院できない。うちも人員に余裕がなく、人工呼吸器は使えない。入院できただけでも良かった方です」
感染力の強い変異株による流行の「第4波」は、徳島の医療提供体制を一気に逼迫(ひっぱく)させた。
感染者は4月以降の1カ月半で千人を超え、5月2日には過去最多の60人に上った。週間感染者数は4月6日から20日連続で過去最多を更新し、人口10万人当たりでみると、一時は東京をしのいで全国5位となった。コロナ病床の使用率は4月10日に50%を超え、政府の対策分科会が示す指標でステージ4(爆発的感染拡大)の水準に達した。
「まさに災害だ」。感染者の受け入れ先を探す県入院調整本部の三村誠二医師が強調する。「1日に50人の感染者が出るのは、50人乗りの大型バスが横転するのと同じ。軽症や無症状の人には待ってもらわざるを得ない」と明かす。変異株のまん延以降は若い人でも急に症状が悪くなる例が珍しくなく、緊急度が頻繁に変わるという。
感染者の急増を受け、県はコロナ病床を4月17日に10床、23日に20床を増やして計230床に拡大。17日には基幹病院の県立中央病院の救急受け入れを原則停止し、コロナ治療に重点を置いた。飯泉嘉門知事は同日の会見で「大胆かつ積極的な対策を講じ、感染拡大の新たなフェーズを迎え撃つ」と力説した。
しかし、23日に75・3%に達した病床使用率は高止まりし、自宅待機が長引く患者は増えた。クラスター(感染者集団)が発生した南海病院とそよかぜ病院では院内に専用病床を設けて感染者をそのまま診る形を取っている。
また県立中央病院の葉久貴司院長は「コロナの診療には多くの人手がかかる。ベッドがあっても受け入れられるわけではない」と指摘する。急変リスクに備えてある程度空けておく必要もあり、100%に達していないからといって余裕があるとは限らない。
コロナへの対応を強化しているため、一般医療へのしわ寄せが増している。
徳島市消防局では、患者の搬送先がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」が4月12日~5月16日に44件あり、前年同期の3・4倍に上った。県立中央病院では感染者を集中治療室(ICU)で診るため、ICUを必要とする手術を先送りするケースがあった。
知事は4月23日の会見でこう釈明した。「医療体制に余裕はなく、どこかで我慢をしてもらって(コロナ対応に)振り向けるしかない。本当に冷徹な判断が求められる。責任は全て知事にある」
死者も後を絶たない。4月に入って増え続け、23日の会見で知事は「県民の命を守るトップとして深く責任を感じる」と述べた。その後も連日のように死者の発表があり、5月18日時点で累計58人に上る。人口10万人当たりでは7・97人と全国11番目に多く、中四国で最多。感染者に対する死亡率は3・65%で全国ワーストとなっている。医療機関や高齢者施設で相次ぐクラスターが一因にある。
知事は病床数を増やすなどの対策に取り組んだものの、感染者の急増により医療の逼迫が続いている。ある医療従事者は「医療現場は疲弊している。こうした状況を知事は本当に分かってくれているのだろうか」と訴えた。
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飯泉知事の5期目が18日に折り返しを迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大への対応が最大の課題となる中、知事はどう臨んできたのか。流行の「第4波」が猛威を振るう4月以降の取り組みを中心に検証する。