「誤った数字ではない」。4月24日に徳島県庁で開かれた臨時会見。新型コロナウイルスに感染した軽症・無症状者用の宿泊療養施設の稼働率について、入所できていない「調整中」の感染者を加えて計算し、公表していることを問われた飯泉嘉門知事は気色ばんだ。「入所している人の数だけ出すと、十分余裕があるように見えてしまう」と正当性を主張したほか、「(稼働率は)参考に書いているだけの話だ」と開き直っているような発言もあった。
この前日、伊藤大輔保健福祉部長の記者会見で、県が宿泊療養施設の入所者として発表していた172人のうち、実際に入所しているのは46人にとどまることが明らかになっていた。
当時県内では感染者が1日に30人以上確認される日が続き、感染者らから「療養施設に入れず自宅待機が続いている」との声が上がっていた。県外では自宅で症状が悪化して亡くなるケースも相次いでおり、都道府県の感染状況をまとめている厚生労働省のホームページでも自宅療養者の項目があるが、徳島県はゼロとなっている。
宿泊療養施設の運営にかかわる医療関係者によると、感染が急拡大していた4月下旬、感染者を車で送ってきた家族が後日、自身も感染して入所するケースが何例もあったという。
「宿泊療養は本人を隔離し、周囲への感染を防ぐ目的もある。すぐに入所できず、発症後数日間というウイルス量が最も多い時期に自宅でいたら、感染を防ぐのは難しい」。関係者は自宅待機中の家庭内感染のリスクを指摘した。
知事は24日の会見で、自宅で5日以上待機している感染者がいるのを認めた。一方で、待機中の家庭内感染についてはこれまで「ない」と断言。根拠は「家庭内での感染対策について注意事項を伝えている」と説明するのみだった。
県はこの後も「調整中」を含めた稼働率を発表し、記者の質問に答える形で療養者の内訳を明らかにしている。ある県議は「全国知事会長という知事の立場もあり、きちんと感染者に対応できていると見せたいのだろう」とみる。
県の情報公開を巡っては、自宅療養者のサポートを行う県医師会の齋藤義郎会長も苦言を呈している。28日に知事と面会した際、これまで病院などの待機患者の状況が把握できていなかったとして「正確に情報を開示してくれないと協力しづらい」と述べた。
県民に向けた注意喚起では、流行「第4波」の背景にある変異株の県内初確認の発表が、国の情報提供から10日後となった。国立感染症研究所が3月2日に8例、9日に1例、陽性確定を県に伝えていたが、県が明らかにしたのは12日の知事の定例会見だった。
発表が遅れたことについて知事は19日の会見で「県内での最初の事例だったため、慎重を期す必要があった」と釈明した。
これまでも、感染源を「県外由来」と強調したり、感染者が広がっている中でも市中感染を否定し続けたりと、県内の状況を矮小化しているとも取れる発信が目立つ。4月8日に県民に警戒を促す「とくしまアラート」を発動する際にも、「一定の囲い込みはできている。予防的措置だ」と語った。
県民らが現状を知り、危機意識を持つことは感染防止に向けた適切な行動につながる。正確さや迅速さを欠いた情報公開では、知事が何度も口にする「正しく怖がっていただきたい」との言葉も空虚に響く。