方言学や社会言語学では「言葉は生き物である」といった言い方をします。長い歴史を経て言葉は絶えず変化を繰り返してきた、ということでしょう。方言は、ある地点における言語実態を継続して観察することでその変化を捉えることができます。

 方言変化の捉え方には二つの方法があります。一つは「見かけ上の時間」によるものです。ある時点で実施した調査に現れた世代差から、その後の言語変化を予測します。

 例えば2020年の調査で、「先生」を70代以上の大半の人が「シェンシェー」と発音する一方で、60代では「シェンシェー」と「センセー」が半々、50代以下では全員が「センセー」と発音したとしましょう。ここに現れた世代差からは、「シェンシェー」がいずれ消滅することが予測できます。

 もう一つは「実時間」によって捉える方法です。仮に2000年と20年に、それぞれの年の言語実態を明らかにする調査をしたとします。二つの時点のデータを時系列上に置き、異なる現象が観察されたならば実時間の言語変化が生じたことになります。

 長期にわたって実時間が経過した後に繰り返し行うものを「経年調査」といいます。日本の方言研究では、国立国語研究所の「日本語の大規模経年調査に関する総合的研究」が世界に知られています。興味のある人は検索してみてください。

 長期にわたる複数回の調査から得られたデータを基にして言語変化の実態を明らかにする研究が、山形県鶴岡市と愛知県岡崎市で実施されています。初回調査は鶴岡が1950年、岡崎は53年です。私も調査員として、2011年の鶴岡調査と08年の岡崎調査に参加しました。

 徳島での実時間の言語変化を知るため、私の手元にある調査結果を紹介します。今から20年前の01年に池田高校と城東高校で行ったものです。当時、私が勤務していた神戸の女子大学に池田高校出身のゼミ生がいました。彼女を中心に実施した両校での調査結果と、13年のものを比較してみます。

 コップから水があふれたときの「マケタ」は、01年調査によると池田が94・6%(111人中105人)、城東は59・8%(117人中70人)の使用率でした。13年調査では池田80・0%(70人中56人)、城東33・3%(42人中14人)です。調査人数に違いはありますが、12年間の実時間を経て県内高校生における「マケタ」の使用率は、漸減傾向にあることがうかがえます。