肉料理の一例(ターンテーブル提供)

 徳島県が2月に東京都渋谷区に開設した情報発信・交流拠点「ターンテーブル」は、徳島の食材を使ったおいしい料理を堪能してそのまま泊まれる「オーベルジュ(料理宿)」がコンセプトということで、レストランはその核となる施設です。2階のレストランに移動したのは午後9時すぎ。お客さんが1巡目の午後9時まではほぼ満席だったそうですが、2巡目のこの時間帯は先客が2組いるだけでゆったりしています。調理場にはオーストラリアやスペイン出身の複数のシェフがいて、スペイン・バスク地方のまきでじか火焼きする肉料理などを売りにしているそうです。

サラダの一例(ターンテーブル提供)

 レストラン内は取材での写真撮影が一切禁止されているため(お客さんによるスマートフォンや携帯電話での撮影は可能です。)、この日食べた料理の写真はありません。イメージだけでもつかんでいただくため、施設から提供された写真で過去の料理の一例をご覧ください。予約していたコース料理は全7品で8000円(税込み)。上勝町の「RISE&WIN BREWING」とコラボレーションしたビール「マケマケナニーパ」(1200円)も注文しました。スダチの酸味とホップの苦味と絶妙にマッチしたフルーティーな味わいで、料理とよく合いました。

マケマケナニーパ(ターンテーブル提供)

 前菜のスズキの刺し身はユズ酢と塩のシンプルな味付け。付け合わせには佐那河内産のカラシナや鳴門わかめが添えられています。全粒粉のパンには白みそと無塩バターを合わせたディップが添えられています。濃厚な味わいのディップは絶品で、お客さんからは単体で買って帰りたいというリクエストが多いそうですが、残念ながら売ってないとのことでした。2品目はサックリと揚げられたタイとタケノコのフリット(天ぷら)で、阿波すだち鶏の卵を使ったアイオリソースでさっぱりといただけます。3品目の、まきであぶったアオリイカのグリルとトマトのガスパッチョは、アオリイカの甘味や弾力、トマトの甘味と酸味の取り合わせが心地よいです。

自家製パンと人気のディップ(ターンテーブル提供)

 4品目は阿波の金時豚のカツレツをカレーソースで。なると金時を混ぜたえさを食べて育つ金時豚は、ジューシーで甘味のある脂が主役と言えるおいしさで、それに負けないくらいしっかりとうま味のある赤身も主張していますす。付け合わせには焼いて香ばしくなった春菊が添えられています。5品目のシカ肉のラビオリにはラグーソースのほか、カブとホウレンソウを使った2色のソースが添えられていて重層的な味わいです。メインの6品目は阿波牛のグリルです。まきで焼き上げられたジューシーなもも肉には、ブランドシイタケ「天恵鼓」を刻んだソースと、フキとワラビの煮びたしが合わされていて、味も食感も楽しい一品になっています。

パスタの一例(ターンテーブル提供)

 デザートは、さちのかと阿波三盆のティラミスで、大谷焼のカップで提供される阿波晩茶と共にいただきます。コーヒーなども注文できますが、何もリクエストしなければ阿波晩茶が出てくるそうです。どの料理もシェフがその日の仕入れ状況に合わせてメニューを考えているため、基本的にすべて同じメニューが出される日はないそうです。1皿1皿運ばれてくるたびに、ウエーターが徳島産の食材であることを丁寧に説明してくれたのも印象的でした。ウエーターは徳島出身の方ではないようですが、徳島の食材や文化についてしっかりと勉強されているようです。別のテーブルでは、阿波晩茶に興味を持った女性からの質問にウエーターが答えていました。

魚料理の一例(ターンテーブル提供)

 どの料理もおいしいのはもちろんですが、有機農法や自然農法で作られたオーガニック食材を使い、味付けや盛り付けにもこだわっていて、徳島の魅力を五感で堪能することができます。施設を運営するDIY工務店の渡部トオル社長が話していた「本物の体験」という意味が分かった気がしました。店内を見渡すと、記者以外のお客さんは4組に増えています。大都会・渋谷で、流行に敏感な人たちが徳島一色の施設で徳島の食材に舌鼓を打っている。とても不思議な感覚にとらわれました。同時に、こういう施設が徳島にこそあってほしいな、と思いました。そうすれば、徳島県民が徳島にもっと誇りを持てるようになるのではないでしょうか。

デザートの一例(ターンテーブル提供)

 おいしい食事を堪能したので、就寝のためドミトリーに向かいます。記者が泊まった男女混合ドミトリーは2段ベッドが5基あって10人が泊まれます。記者のベッドは上の段です。ベッドを含む居室はタテ約2・3メートル、ヨコ約1・1メートル、高さ約1・2メートルで、身長175センチの記者が寝たり座ったりするには十分な広さ。コンセントは2基あり、1基は照明に使われています。枕元に貴重品入れがあり、A4ノートパソコンや一眼レフカメラを入れても十分余裕がありました。スーツケースを置くスペースはないので、通路に放置している人がほとんどでしたが、記者は取材機材もあるため〝添い寝〟しました。下のベッドの人のいびきや、出入りする人のドアの開け閉めの音はしますが、眠れないほどではありませんでした。

ドミトリーの居室

 トイレとシャワーは各階にあって、どれも男女別の共同です。男性用シャワールームには鍵のかかる個室が2部屋あります。ボディーソープやシャンプーは徳島の企業の商品でした。ドライヤーもありました。1階のカフェでいただく朝食は、ごはんにワカメの入ったみそ汁、サバの水煮、フィッシュカツなどのおかずが数品。メインは新鮮な生卵を使った卵かけご飯のようです。生卵がくせのないあじわいで、おかわりして食べました。コーヒーのほか、ここでも阿波晩茶が飲めます。一通り取材も終わったので、11時のチェックアウト時間に施設を後にしました。

共用のシャワールーム

 この足で有楽町の東京交通会館に向かいました。ここには北海道や沖縄県などの15のアンテナショップが入っています。徳島銀行と香川銀行が開設した徳島・香川両県の物産を扱う店もあります。各店にはさまざまな特産品が売られており、多くのお客さんでにぎわっています。一番人気は北海道でしょうか。夕張メロンソフトが次々に売れており、記者も思わず買ってしまいました。ただ、各県の物産が手軽に買えるというだけで、本当に県のPRになっているのか、その県に行ってみたいと思う人が増えるのかと考えてみると、なかなか難しそうだと感じました。そう考えた時に、ターンテーブルが目指していることの意味がより理解できた気がしました。

 一方で、ターンテーブルが掲げる、徳島の知名度がアップ、徳島への訪問客や移住者増加という目標の達成状況をどうやって客観的に測れるのかという疑問も浮かびました。県は議会に促される形で、ターンテーブルの年間目標として利用者3万人、飲食・物産部門の売り上げ2億3000万円、県産食材の仕入れ額6000万円などを掲げています。2~4月の利用者数は計8031人と順調に伸びているので目標を達成することはできるかもしれませんが、多くの人が訪れて物が売れたというだけでは県の知名度アップや訪問客増加につながったとは言えません。

大勢の人でにぎわう北海道のアンテナショップ前=東京都千代田区有楽町の東京交通会館(画像の一部を加工しています)

 こうした疑問を解消するため後日、ターンテーブルを所管する県もうかるブランド推進課を取材しました。阿部順次課長らは、インスタグラムのインフルエンサーを中心としたPR戦略の成果として、インターネット上でターンテーブルを「おしゃれすぎる徳島のアンテナショップ」と紹介する記事が見られるなど、徳島の知名度アップにつながっていることを強調。「利用者数や売上データに加え、こうしたインターネット上の徳島に関する好意的書き込みがどれだけ増えたかといった情報も収集し、成果を幅広く検証できるようにしたい」と説明してくれました。

 徳島の施設だということを積極的にPRしていないという手法については、県民から「もっと徳島を前面に打ち出してもよいのではないか」という意見も寄せられているそうですが、阿部課長は「現在は施設の自主的な運営に任せていますし、一定の効果も出ています。施設のおしゃれな雰囲気を損なわないPR手法も含め、もっとこうした方が徳島の知名度アップにつながるのではないかといった話し合いは続けていきます」と説明してくれました。施設で渋谷の飲食店の料理人に県産食材をPRするイベントや、徳島の文化発信イベントも開いていくそうです。

隣接する公園から臨むターンテーブル。この公園で徳島のPRイベントも行われる

 既存のアンテナショップとは異なる手法で徳島の魅力を全国に発信するというターンテーブルの挑戦は非常に夢のあるものです。ただ、公費を投入している以上、短期的には県産品の売上目標の達成などの成果を上げる必要がありますし、徳島の知名度アップや移住者増加といった目標は中長期的に取り組まなければ成果は出ないでしょう。今後、明確な指標で県民に分かりやすく事業成果を示しながら、よりPR効果を高めて目標を達成することができるのか。県や運営業者の取り組みには県内だけでなく、全国の自治体関係者が注目しているはずです。