近年、夏場に大規模な水害や土砂災害が相次いでいる。暑さの増す時季の避難所は睡眠環境が良くない上、熱中症のリスクも高まる。衛生状態も悪くなりがちだ。避難者の健康を守るために、運営面でクリアすべき課題は少なくない。

東日本大震災の被災地の避難所では、布団や床にカビが生えることもあった=2011年6月、宮城県石巻市

 避難所には体育館などの広い空間が使われることが多い。発災初期の避難者は床に敷いた布団やビニールシートでの雑魚寝を余儀なくされる。ただでさえ不慣れな環境に、夏場は暑さや衛生環境の悪化が追い打ちを掛ける。

 防災研究者らでつくる避難所・避難生活学会(大阪府)によると、2011年の東日本大震災の発生時、ある避難所では余震への恐怖から被災者が屋内でも土足で生活していた。屋外はがれきが堆積して砂ぼこりがひどく、洗濯や天日干しができない布団や床にカビが生える事例もあった。ヘドロなどからハエが大量に発生したほか、窓を開けていると蚊が侵入し、睡眠の妨げとなった。

 18年夏の西日本豪雨の被災地では、発災から1週間ほどが経過しても、茶色に染まった服を着た人がたくさんいた。支援物資の衣類が届かず、避難者は泥まみれになった自宅を掃除した後、毎日同じ服を手洗いして身に着けた。この時点では、避難所に入浴設備や洗濯機はなかったという。

 17年の九州北部豪雨、昨夏の熊本県での豪雨など、夏場に大規模災害が相次いでいる。多くの避難所では空調設備が整っておらず、室内はうだるような暑さとなり、熱中症や脱水症状、食中毒になる人が続出した。衛生環境の悪化や水不足で感染症が広がる事例もあった。

段ボールベッド実験

高い保温性や防カビ性 荷物収納できる利点も

 徳島大大学院の金井純子助教(地域防災学)の研究グループは、避難所の生活環境改善を目的に段ボールベッドの機能性を調べる実験を行った。その結果、保温性や防カビ性が高いなど利点が多いことが分かったという。

段ボールベッドの機能性を調べる実験を再現する金井助教。機能性の高さが分かったという=徳島市の徳島大常三島キャンパス

 昨年7~9月、阿南光高校新野キャンパス(阿南市)で実験した。段ボールベッドとブルーシート、簡易ベッドを体育館の床に設置。その上に寝袋で包んだ40度の湯を入れたポリタンクを置き、それぞれの保温性、防カビ性、震動緩和性を計測器で調べた。

 段ボールベッドは内部に温かい空気をため込みやすい。床に直接敷いたブルーシートや、床と寝台の間に隙間がある簡易ベッドよりも熱が逃げにくかった。防カビ性は通気性の悪いブルーシートが最も低く、カビ発生までの期間が3~5日程度、簡易ベッドは5日~2週間程度だったのに対し、吸湿性の高い段ボールベッドは1カ月ほどだった。歩行時の振動緩和性は計測結果に大きな違いがみられなかった。

実験に使った寝具。左から段ボールベッド、ブルーシート、簡易ベッド

 段ボールベッドは軽量で強度が高く、内部に荷物を収納できるなどの利点もある。東日本大震災以降、避難所などへの導入が進んでおり、熊本地震や西日本豪雨など近年発生した災害でも被災地に支援物資として供給されている。県は2016年10月、徳島が被災した場合、避難所などに必要量が供給される協定を西日本段ボール工業組合と結んでいる。

 金井助教は「避難所は雑魚寝が当たり前で、床に頭が近いためほこりやウイルスを吸い込みやすい。段ボールベッドに限らず、避難所への寝具の配備が進み、避難者の健康被害軽減につながってほしい」と話す。

課題解決への提言 避難所・避難生活学会 水谷嘉浩理事

生活で改善するポイント 日常に近い環境が大切

 避難所・避難生活学会の水谷嘉浩理事は、避難所生活の環境を改善するポイントとして「排せつ」「食事」「睡眠」を挙げる。

 避難者は被災した精神的打撃に加え、避難所の過酷な環境に肉体的なダメージも蓄積する。中には絶望感から自立する意欲をなくし、避難生活が長期化してしまう人もいる。水谷理事は、避難所を日常に近い環境に整え、避難者を元気づけることが生活復興の鍵になると説く。

 避難所となる施設の多くはシャワーや調理場、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの設備が不十分。仮にエアコンが備わっていれば熱中症を予防でき、調理場があれば菓子パンなどに偏る食生活が改善される。しかし、予算面などがネックとなり整備は難しいのが現状だ。

 水谷理事はこうした課題を解決する案として「トラックに大型発電機や温水シャワー、エアコン、キッチン、照明、仮設トイレ、必要な家電などを積み、四国各地に分散配備しておくこと」を挙げる。

 道路が復旧した避難所に順次届けることができる。トラックはコンテナでもよく、沿岸部や山間部などさまざまな場所に備えておくのが重要だという。

 この方法だと、被災していない地域から被災地へ支援を集中させられるほか、ライフラインも迅速に復旧できる。防災先進国のイタリアでは同様の取り組みが進んでおり、自治体同士の相互支援体制も整っている。

 睡眠環境の改善については、自治体が各避難所に段ボールベッドを10~20個ずつ配備。要配慮者に優先利用してもらったり、不要なベッドを必要な避難所に送ったりといった仕組み作りを進めるべきだと提案する。

 水谷理事は「避難所の過酷な環境を知っているため、行きたがらない被災者も多い。避難しやすい環境を整えれば助かる命も増える。自治体は資機材の備蓄や相互支援体制の構築に努めてほしい」と訴える。