女子テニス界のトッププレーヤー、大坂なおみ選手が発した記者会見拒否の訴えは、彼女自らが「うつ」の悩みを告白することによって、ようやく改善への道が開けた。

 一時は事実上の追放処分を警告していたテニス四大大会の主催者たちは、手のひらを返すように「意義のある改善を目指す」と約束した。大坂選手の問題提起が実を結ぶよう、対話を通じて改革してほしい。

 大会主催者の面々は、百年を超える伝統と権威にあぐらをかいていたのではないか。選手の異議申し立てや意見表明には、寛容であるべきだ。お互いに歩み寄り、新たな可能性を探らないと、ファンの支持を失うだろう。

 大坂選手が投げかけた問題には、スポーツ界を巡る二つの論点がある。

 一つはメディア対応の在り方だ。選手自らがSNSを通じてファンに発信する中、試合直後の記者会見を義務化する必要性に疑問が生まれるのは当然の成り行きではないか。

 大坂選手が特に問題としたのが敗者への対応だ。「落ち込んでいる人に追い打ちをかけるようなもので、そんなことをする理由が理解できません」と厳しく批判する。

 敗者にむち打つ取材など、報道する立場から見ても論外である。「会見を拒否すれば罰金」という取り決めも、主役である選手を法外な金銭で束縛する非人間的な態度だ。

 改革の余地は大いにある。スポーツメディアの関係者も、当事者として積極的に論議に関わるべきだ。

 もう一つの論点は、メンタルケアの重要性だ。

 大坂選手は全米オープンに初優勝した2018年から「長い間、うつに悩まされてきた」と記した。一気に頂点に立ち、追われる立場になってからの悩みだと言うのだ。

 ビッグタイトルによって環境は激変した。ツイッターや記者会見での一言一句に注目が集まる。年収約66億円の大半は、スポンサー企業からの収入だ。ナイキや全日空、日清食品のCMなど、その姿をテレビで見ない日はない。

 若くして栄光を極めた感はあったが、心は悲鳴を上げていた。世界の頂点に立った先に、それまで以上の試練が待っていることを、大坂選手の告白は教えてくれた。

 トップアスリートの苦悩は、東京五輪を目指す選手たちも同様だろう。自国開催のプレッシャーに、コロナ禍による先行き不安が加わり、心理的に厳しい状況に置かれている。

 メダル至上主義が生み出す悲劇を防ぐことも、大会関係者の大きな責務だ。