初の小説集「ぐるり」を刊行した高橋久美子さん(本人提供)

 作家・作詞家の高橋久美子さん(39)=鳴門教育大卒、東京都在住=が、初の小説集「ぐるり」(筑摩書房、1540円)を出版した。どこにでもいそうな平凡な人たちの何気ない日常から、一瞬だけこぼれ落ちた大切な感情を丁寧に拾い上げた連作短編19編。ロックバンド「チャットモンチー」の元ドラマーとして7年間の音楽活動を経て、2012年からエッセーや詩なども手掛けている高橋さんに作品のテーマや創作の源などについて聞いた。

 -「ぐるり」はウェブマガジンで19年から20年にかけて発表した15編に、4編の書き下ろしを加えた。

 最初はエッセーを連載していたんですけど、作家を始めて約10年になり、こうして連載を読んでもらえるなら、自分の次のチャレンジとして実験的に小説を書いた方が面白いんじゃないかと思ったんです。担当編集者に提案したら「いいですよ」と言ってくれて、異例にも途中から小説を連載することになりました。

 -「ぐるり」が初めての小説となった。

 エッセーは一からですけど、小説はゼロから作るから、より力が試されているような気がしましたね。でも、行き詰まることもあまりなくて楽しかったです。長くエッセーを書いていて、少し自分の視点から離れてみたい気持ちになっていたんだと思う。小学生になったりおばあさんになったりして、自分ならどうするんだろうと考えながら書きました。作詞をしていると、二十歳の若者が歌う場合もあれば、年配のベテラン歌手が歌うこともある。いろんな人が歌うことを想定して書くという側面があるので、歌詞を書くのに近い感じもありました。

 -作品のテーマは。

 登場人物はみんな平凡な普通の人々なんですよ。それぞれにドラマみたいな大きな事件もなくて、毎日のルーティンの中で暮らしている。そんな見落としそうな日常の繰り返しの中で、少しだけその人の熱が上がったり誰かに思いが届いたりする。そうした小さな喜びや悲しみといった大切な瞬間をとどめておきたい、特別じゃない人の特別を書きたかったんです。意外と人間ってみんな掘ってみたら面白いんですよね。

 -創作の源はどこから。

 半分ぐらいは新型コロナ禍の時期に書いたので、時代から受けた影響が大きかった。例えば「星の歌」はライブハウスがどんどんつぶれていって、ミュージシャンがステージで歌えなくなって、口にはマスクをするという今の状況を基にしています。それは私が音楽をやっていたこともあり、昔の仲間がすごく大変な思いをしながら頑張っていることに対して心が動いたから書けた。「歌うって何だ?」というのを掘り下げて、中には「祈り」みたいな感情も入っている。

 -作詞の経験が生かされているか。

 音楽をやってきたことも生かされていると思う。短編って1から100まで全部書かずに余白の部分を想像して読んでもらうものだと思うんです。歌詞も書かれていない部分を自分に置き換えながら聴いてくれているので、近い感じがしましたね。歌詞では書けないことを小説では深く掘って書いている気がします。人間の悪とか業の部分というのは、たとえ自分の業だとしてもなかなか書けない。だけど、小説なので架空の人物を使って普段は人には見せない人の姿を書けたように思います。

 -今後の展望は。

 今、中編小説を書いています。作詞を20年近くやってきて感じるのは、歌詞ってすごく短距離走なんですよ。短い中に一つの物語をぎゅっと入れる感じなんですね。いずれは長編小説も書ければと考えているんですけど、今は少しずつ距離を伸ばしながら頑張っていこうと思っています。

 -読者へメッセージを。

 物語には、自分自身や実家の母親みたいだと感じる登場人物がきっといると思うんですよ。そういう人たちの心の奥深くに潜っていくような作品になっています。一見優しそう、平凡そうに見える人の裏側をドキドキしたり、時にはほっこりしたりしながら楽しんで読んでもらいたいです。