二つの時点の調査データを時系列上に置き、それを比較すると実時間の言語変化を捉えることができます。2001年と13年に、池田高校と城東高校で実施した調査結果を比較し、実時間の方言変化を見てみましょう。

 調査人数は01年の池田が111人、城東は117人、13年は池田70人、城東42人でした。2校ともに01年は複数回答可、13年は単一回答です。

 まず、「駄目だ」の方言形です。01年調査では池田で41人が「アカン」だったのに対し、「イカン」は2倍以上の102人でした。城東では「アカン」が106人、「イカン」は58人でした。当時の高校生は「アカン」と「イカン」の併用だったものの、県西部は「イカン」、県東部では「アカン」が優勢だったことが分かります。

 13年調査では池田で「アカン」が41人、「イカン」は29人と逆転しました。城東でも「アカン」35人、「イカン」4人、「その他」3人と、「アカン」の勢いがさらに増しています。

 「アカン」は、「埒(らち)があかぬ」と言うときの「あかぬ」が転じたものと考えられています。関西のお笑い芸人がテレビで頻繁に使うので、全国的には関西弁だと思われている節があります。しかし実際の使用地域を見ると、東は新潟、北陸や長野、西は四国まで広範囲で使われています。

 「イカン」は、「いけぬ」から転じた「イケン」に結び付く言葉です。分布域は「アカン」と重なりつつも外側に広く、東北から九州でも使用されています。

 若年層における「アカン」の隆盛には、二つの理由が考えられます。一つは、地をはう言語の伝播、つまり県東部から県西部への言葉の進出です。京都を中心に周辺部へと同心円状に言葉が広がるとする「方言周圏論」に従えば、徳島県では東から西への伝播(でんぱ)が生じることになります。

 ここ20~30年は方言周圏論の地域版と言うべき現象が全国各地で指摘されるようになりました。徳島県でも地域の経済、文化の中心である徳島市の言葉が周辺に広がっているようです。

 言葉の広がりには心理的な側面も見逃せません。端的に言えば、その言葉が好きか嫌いか、好きならば好んで使う、といった志向の問題です。2000年ごろからはマスメディアを介し、関西方言が若年層を中心に全国に広がりつつあります。

 その理由を言語学者の陣内正敬と友定賢治は「関西的な楽しさや笑いが、現在の豊かな社会・娯楽社会で、会話を楽しむという時代風潮に一致したためである」と分析しています。「アカン」は古くからの阿波弁ですが、若年層の使う「アカン」には関西的なコミュニケーションへの志向も少なからずあると考えられます。