徳島県南部の中山間地中心に生産される「阿波晩茶」は、爽やかな香りとほんのりとした酸味が特徴だ。微生物の働きで発酵させる「発酵茶」の一種で、2021年3月には国重要無形民俗文化財に指定された。伝統的な道具や技法を途絶えることなく伝えてきたとして高く評価され、山あいの生産者たちを勇気づけた。
阿南、勝浦、上勝、那賀、美波の5市町の114戸が茶作りに励んでおり、三好、神山の2市町でも数戸が生産している(19年2月時点)。那賀、上勝、美波の3町では製造技術の継承へ向けた保存会も結成され、担い手の育成や消費者への普及啓発に取り組んでいる。
成長した硬い茶葉を大釜でゆでることで自然発酵を抑え、密閉した桶(おけ)や樽(たる)に数週間漬け込んで乳酸発酵させる。これは、世界的にも珍しい「後発酵茶」と呼ばれる手法だ。
夏場の茶摘みから仕上げの天日干しまで、手間のかかる多くの工程があり、そのほとんどを手作業が占める。生産者ごとに道具や作業内容にわずかな違いがあるため、茶の味も微妙に異なるという。ステイホームのひとときを、まろやかな味わいの阿波晩茶で癒やしてみてはどうだろう。
〈2021・6・17〉