新年度最初の授業で「徳島県が淡路島を介して本州と陸続きになったのはいつか」という質問をしました。残念ながら県内出身の学生も答えられませんでした。1998年の明石海峡大橋開通は徳島県にとってエポックメーキングな出来事だったはずですが、今の大学生には歴史の一つにすぎないようです。

 本州と陸続きになることで関西方言の流入が進んだのでしょうか。鳴門教育大学国語講座の「大阪~徳島グロットグラム図集」は、明石海峡大橋開通の4年前、今からだと27年前の94年に公刊された方言資料です。

 グロットグラムとは縦軸に年齢、横軸に地点を取り、交わったところに方言調査の結果を示した図です。「地理×年齢図」ともいいます。

 地域差と世代差を一緒にして一枚の図に表すことができるので、方言の変化や伝播(でんぱ)を捉えるのに便利です。この図集では大阪市から神戸市、淡路島を経て、鳴門市の大毛島から徳島市、阿南市までを調査地点としています。

 図集の調査結果をいくつか紹介します。「駄目だ」の阿波弁は、40代以上は「イカン」が、30代以下では「アカン」が優勢です。

 2013年の城東高校調査では「アカン」が圧倒的でした。「イカン」「アカン」併存状況から、若年層では「アカン」一辺倒になりつつあります。13年の池田高校調査でも「アカン」の使用が「イカン」を上回っており、「アカン」の西進が見て取れます。

 図集によると、「苦しい」の阿波弁は40代以上で「セコイ」「シンダイ」が使用される一方、30代以下は「シンドイ」「エライ」を使っています。「セコイ」の衰退が懸念される結果ですが、13年の城東高校調査では「セコイ」は標準語の「苦しい」とほぼ同じ使用数でした。「シンドイ」は「疲れる」の意味に限定して使われています。「アカン」と「シンドイ」からは明石海峡大橋開通時の関西方言伝播の実態がうかがえます。

 「駄目だ」「苦しい」を表現する阿波弁は、40代以上と30代以下で差異が見られます。現在の年齢では、おおよそ70代以上と60代以下になるでしょう。

 差異の原因はテレビの出現です。徳島県の沿岸部では早くから関西局を視聴して関西方言に触れる環境にありました。5~15歳くらいの言語形成期に関西局のテレビを見なかった現在の70代以上は、関西方言の影響をさほど受けませんでした。

 一方、60代以下はテレビを通じて関西方言を大いに取り入れた阿波弁を習得しました。昭和から平成にかけての通信網と交通網の発達は、阿波弁にも多大な影響を与えたといえそうです。