大里松原海岸に約50メートルにわたり残っていたウミガメの上陸跡。4カ所、穴を掘っていたが、専門家によると、産卵はしていなかった=海陽町

 近年、減少が続いているアカウミガメの県内への上陸が、今年は増加に転じる可能性が出ている。県南や高知県室戸市近海で行われている定置網漁にかかるアカウミガメが急増していることがその根拠だ。実際、美波町の大浜海岸では5月12日を皮切りに3回上陸し、昨年実績に既に並んでいる。今月16日には阿南市の北の脇海岸でも初確認。徳島新聞の調べでは、海陽町の大里松原海岸にも上陸跡が1カ所あった。増加の理由は定かではないが、専門家からは「高知県でウミガメを食べる文化が衰退しているため」との意外な答えが聞かれた。

 日本ウミガメ協議会が室戸市で運営する「むろと廃校水族館」によると、室戸沖での四つの定置網で3~5月に混獲された甲長78センチ以上(成熟個体の目安)のアカウミガメは計22匹で、前年同期(9匹)の2・4倍に増えた。3~5月で混獲数が20を超えたのは2003年以降、08年26匹、13年20匹の2回しかなく、両年は全国的に上陸回数が増加し、前後数年におけるピークの年となっている。

 美波町の日和佐うみがめ博物館カレッタによると、県内でも海陽町の鞆浦漁協の定置網に入るアカウミガメが例年に比べ倍増している。網に入ると漁協からカレッタに連絡があり、標識を付けるために職員が港に出向くが、今年は連日、この作業が続くときもあったという。

 近年、全国のウミガメ上陸実績は低迷傾向にある。とりわけ徳島県内は、20年に全国各地が増加に転じる中、減少に歯止めがかからず、専門家から「徳島は一人負け状態にある」と指摘されていた。

 今年は徳島も増加する可能性があるが、なぜ、定置網での混獲が増えているのかははっきりしない。むろと廃校水族館の若月元樹館長(日本ウミガメ協議会理事)は「高知県内では最近までアカウミガメを食べる文化があった。それが時代の流れなどから衰退してきていることが大きいのではないか」と分析する。

 都市部から離れた室戸は以前から、ウミガメも貴重なタンパク源として重宝されていた。徳島県内でも県南の一部で、過去にウミガメを食べていたが、高知の方がはるかに食文化として定着していたとみられる。

 2年前まで水族館近くの椎名漁港を拠点に魚介類を買い付け、市内中心に行商していた同市の寺本淳三さん(79)は「行商をやめるまでウミガメは売っていた。20人くらい固定客がいて、10日に1回は引き合いがあった」と話す。寺本さんが引退した今、室戸では入手困難になっているという。

 カレッタの田中宇輝(ひろき)学芸員は「昨年までが遅過ぎただけなのかもしれない。どれだけ増えるか楽しみにしている」と期待を口にした。

高知ではウミガメの肉を鍋の具材に使用

 「鍋の具材に使う。だいたいみそ風味の鍋で、臭いがすごいのでカレー粉をたっぷりと振る。テキとして焼いても食べる」。高知県室戸市で行商としてウミガメの肉を売っていた寺本淳三さんは食べ方をこう説明する。

 同市の鮮魚店・浦戸屋の2代目岡峯良一さん(90)は「店で販売していたのは約30年前まで。定置網にかかったウミガメを入札で競り落とす。買った人が解体し、店で売る。鍋料理にするか、砂糖としょうゆで甘辛く炊く。かしわに近い感覚で、ごちそうだった。月に1、2度は仕入れていた」と話した。

 高知県は1990年ごろ、ウミガメを採捕する場合は海区漁業調整委員会の承認が必要とする制度を導入している。ウミガメの保護が目的で、食材や研究目的として定置網の組合や研究機関計11団体が承認を得ている。