「五輪ありき」「観客ありき」で突き進む政府や大会組織委員会への警鐘と受け止めるべきだ。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が、東京五輪・パラリンピックについて「無観客が望ましい」と提言した。

 根拠とするのが、首都圏では既に人出が増えており、ワクチン接種が順調に進んでも、7~8月に感染者や重症者が再び増加する恐れがあるとの分析だ。規模や注目度が別格の五輪が開かれると、お盆や夏休みとも重なり、県境を越えて多くの人が移動するため、感染拡大や医療逼迫(ひっぱく)のリスクが高まるという。もっともな指摘だ。

 国立感染症研究所などの試算では、観客を入れると、無観客の場合に比べ感染者が累計で1万人増える可能性がある。インド株の影響が小さいとしても、期間中に緊急事態宣言が必要になる恐れがあるとする。

 専門家の提言では、観客を入れるなら、他の大規模イベントよりも厳しい基準を設け、観客は開催地に住んでいる人に限るよう求めているが、あくまで次善の策だ。まずは無観客での開催を検討すべきである。

 感染再拡大への危機感からだろう。専門家有志は「開催すればどんなリスクがあるのかをまとめるのはプロの責任」として提言に踏み切った。これに菅義偉首相らが耳を傾けるつもりがあるのか疑わしい。

 緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の解除後1カ月程度の経過措置として、大規模イベントで定員の50%以内であれば1万人を上限とする政府案を、分科会が16日に了承した際、尾身氏は、これは五輪の観客の議論と関係ないことを政府に確認したと強調した。ところが翌日、これを無視するかのように首相は、観客を入れる意向を表明し、上限1万人を基本として決定されるとの見解を示した。

 そこには、大会を盛り上げて政権浮揚につなげたいとの思惑が透ける。1万人まで観客を入れられれば、多くの会場で再抽選や払い戻しをしなくて済むといった事情もあるようだ。

 今回、東京などで宣言を解除し重点措置に移行したのも、五輪開催を前提とした措置だろう。7月11日に重点措置を解き、上限1万人とするのが「既定路線」に見える。

 首相や組織委は「安全安心な大会を実現する」と繰り返してきた。だが、その根拠は希薄で、納得のいく説明は聞かれない。

 政府や組織委は自分たちの都合を優先し、「安全安心」を後回しにしていないか。その姿勢を改めなければ、大会の成功など望むべくもない。