コウノトリの「百」と「歌」の巣立ちも、故障していた「ばんどうの鐘」が再び鳴り始めたのも、きょうという日に合わせたかのようである

 鳴門市大麻町にあった板東俘虜収容所で、ドイツ兵捕虜がベートーベンの「第九」を演奏してから100年を迎えた。人と人の縁ほど不思議なものはない。「第九」は敵と味方を結んだ

 板東の地で生まれ、育まれてきた絆。その歴史を知っていれば、初対面でも、百年の知己のように思えよう。日独で共通する言葉は「フロイデ(歓喜)」である

 シンポジウムでは、先人が残した目に見えない遺産を、後世にどう引き継ぐのかを話し合う。「人はパンのみにて生くるものにあらず」。収容所で捕虜は、どう人間らしく生きようとしたのか。心の飢えを満たすことに腐心した跡をたどりたい

 福島県会津若松市出身の松江豊寿所長は人道主義に徹し、温かく遇した。古里からも、ドイツからも関係者が集う。武士の情けや、敗者へのいたわりを大切にした松江。銅像の除幕式もある。大きな曲がり角にあるこの時代を見守ってくれるだろう。愚者になるな、賢者であれと戒め、励ましながら

 鳴門市では、記念すべき「第九」演奏会が開かれる。共に歌おう。平和を喜ぶようにコウノトリが舞い、友愛の証しである鐘が鳴る。日独の懸け橋よ、永遠なれ。