北に吉野川、南に阿波富士とも称される高越山を望む徳島県吉野川市山川町の西川田地区。かつては県内交通の要衝としてにぎわった。時代の移り変わりとともに訪れる人は減ったものの、変わらぬ味を守る名物、複数の線路が通る駅などが往時を今に伝える。古くからある神社を通し、住民のつながりを大切にしている地域だ。

 

川田まんぢう 創業150年老舗の看板

 県道を挟んで川田駅の向かい。「川田まんぢう」と書かれた、灯籠の形をした看板が目を引く。県民になじみ深い、白い薄皮で包まれた小さな一口サイズのまんじゅうは、ここが本店だ。

一つ一つ手作りされる「川田まんぢう」=吉野川市山川町川田

 製造・販売の「長久堂」こと吉田商店は1872年の創業。まんじゅうは、間もなく150年を迎える老舗の看板商品だ。

 1900年に山川町川田まで徳島からの鉄道が延びた。まんじゅうは、構内で休憩する人や駅の利用客のために考案された。現在の川田駅ができた14年、駅前に店を構える。80年代前半までは駅ホーム内で立ち売りも行われ、掛け声が駅の風物詩になっていた。 

 代々伝わってきた製法で一つ一つ手間を惜しまず作る。北海道産の良質な小豆や小麦など素材も厳選。保存料や着色料は使わない。小豆の皮を丁寧に除き、あんは薄墨色。ゆで上げ、すりつぶすまでに何度もあく抜きする。きめが細かく、しっとりとした食感で喉ごしがいい。

 「元日も休みなく製造していた」と吉田明美前社長(71)は振り返る。鉄道から車へと交通手段が変わる中、76年に国道沿いに出店。観光バスが次々に立ち寄った。

 交通の要衝だった川田地区はすっかり姿を変えた。名物を守っていくのは容易ではないが、6代目社長を務める吉田恵子社長(46)は「変わらない味を守りたい。若い人にも食べてもらえるように工夫する」と決意を語る。

 16個入り800円など。営業時間は午前7時~午後6時。不定休。問い合わせは川田まんぢう本店、電話0883(42)2206。

 

川田駅 ホームに往時の名残

 吉野川市の最も西にある駅、川田駅。鉄道が交通の主力だった頃は、県西部や四国各地に行く人、県東部や本州方面に向かう人など、多くの利用客でにぎわった。周辺には製糸工場などが建ち並んでいた。無人駅になった今も、比較的長いホームや広い敷地が名残を感じさせる。

駅周辺の美化や花の手入れに励む山下さん=吉野川市山川町川田の川田駅

 最初の川田駅は1907年8月、現在地の東約1キロのところに開業した。地元では、山川町川田出身で明治、大正期に国の要職を歴任した芳川顕正(1841~1920年)の帰省のために造られたとも伝わる。14年3月、鉄道が池田町まで延びたのを機に、現在地に移設された。

 駅舎を抜けてホームへとつながる陸橋近くの線路沿いには、多彩な花が植えられている。世話をしているのは老人会「山水会」川田西第二クラブの山下善廣会長(75)。JRの許可を得て10年ほど前から育てている。ヒマワリ、バラ、皇帝ダリアなどが植えられ、季節を彩る。駅舎西側には桜を植樹した。

 駅前の自宅から毎日水やりに訪れ、草取りをする。「ボランティア駅長だよ」と笑う。花の世話だけではなく、利用者が安心できるよう気を配る。駅舎の中に鳥が巣を作り、ふんが通学中の女子生徒の制服を汚したことがあり、すぐに巣を取り除いた。

 幼い頃は、8両、9両と連なった列車が駅に止まった。開放された車両でよく遊んでいたという。「駅に育てられたようなもの」。恩返しを続ける。

 

餃子工房 皮から餡まで手作り

 山川町の国道192号沿い、北側に立つ「ギョーザ」ののぼりが目に留まる。一見、民家のような建物の玄関に「餃子(ぎょうざ)工房」の看板が掛かっている。

古谷さん夫妻が営む「餃子工房」=吉野川市山川町川田

 営んでいるのは古谷敏雄さん(72)美代子さん(71)夫妻。美代子さんの実家がある川田八幡神社近くに店を構えていたが、2012年に現在地に移転した。

 メニュー表には肉、ネギ、ニラ、ゆずみそとバラエティーに富んだ餃子が並ぶ。15種類ほどあり、1人前(冷凍は6個、焼きは5個入り)が380~480円。6種類や3種類を楽しめるセットもある。もちもちした食感で、1個約30グラムとボリュームもたっぷり。皮から餡(あん)まで手作りだ。

 敏雄さんは東京都生まれ。料理好きで、会社を退職した後、妻の実家で店を始めた。材料のキャベツやニラなどの野菜は、美代子さんが無農薬で自家栽培。季節によってメニューを変える。タレはユズの搾り汁を使った自家製。店内で飲食するとサラダも付く。

 皮がピンクに染まった「海老餃子」、ホウレンソウを練り込んで皮がツートンカラーになった「野菜餃子」は目に鮮やか。徳島名物のそば米に、おからを使った「徳島餃子」は健康志向を意識した。

 県外から訪れるファンもおり、夫妻は「おいしかったと言ってくれるのがうれしい。できる範囲で楽しみながら続けたい」と笑顔を見せる。

 午前9時~午後7時。不定休。店内飲食は新型コロナウイルスの影響で休止しているが、感染状況をみながら再開する。問い合わせは餃子工房、電話0883(42)2515。

 

種穂神社 山中に格式高い社殿

 高越山から延びる裾野が吉野川に突き出すように迫る。突き出た部分が種穂(たなぼ)山(379メートル)。山頂からは山川町全体を見渡せ、吉野川、徳島平野、淡路島も望める。

種穂山の山頂近くにある種穂神社=吉野川市山川町川田忌部山

 山頂付近には種穂神社が建つ。「改訂山川町史」には「延喜式内社であり、郷社ともなった格式のある神社であった」との記述がある。山中の立派な社殿からも格式の高さがうかがえる。忌部氏ゆかりの地とも伝わる。

 かつては、ふもとの西川田地区だけでなく、美馬市穴吹町や対岸の阿波市阿波町などに広く氏子がいた。境内の土俵では相撲大会が開かれていた。子どもの頃に参加した柴田佳彦さん(75)=山川町川田、農業=は「穴吹に負けたらいかんと力が入った」と懐かしむ。

 木の実を探したり虫を採ったりと、山は子どもたちの遊び場でもあった。地元の川田西小学校(2018年閉校)では児童の登山が恒例行事だった。迷わないようにと、ふもとから神社への道中には道しるべが設けられている。

 境内、参道、車道の清掃・補修は氏子や山川の文化財を守る会会員ら地元の有志が定期的に行う。今は、神社までの道は舗装されている。後半は急な上り坂が続くものの、川田駅から歩いて約1時間で頂にたどり着く。

 少子高齢化が進み、山や神社を訪れる人は少なくなった。末社であるふもとの3神社の秋祭りは毎年みこしが出て、子どもたちも参加する。柴田さんは「山や神社に関心を持ち、後世につないでいってくれたら」と願っている。