コロナ下で海水浴場が開設されていない月見ケ丘海浜公園=2020年7月、松茂町豊岡

 例年なら家族や友人らと海水浴場に出掛けるなど、水辺で遊ぶ機会の増える夏。毎年のように水難事故が懸念される中、昨年度は新型コロナウイルス禍で、全国的にプールや海水浴場の開設中止が相次いだ。外出自粛ムードも相まって事故件数は減ったのかと思いきや、逆に増えたという。一体どういうことなのか。
 

「河川」「湖沼池」など身近な場所で増加 警察庁まとめ

 

 警察庁によると、2020年の水難事故の発生件数は、19年より55件多い1353件(中学生以下の子どもは117件)。水難者は9人増の1547人(176人)で、うち死者・行方不明者は27人増の722人(28人)だった。

 死者・行方不明者722人について、発生場所別で見ると「海」が19年より16人減の362人、「プール」が3人減の3人だったのに対し、「河川」は29人増の254人、「湖沼池」は11人増の34人、「用水路」は4人増の61人だった。子どもの場合も、河川や用水路での事故が増えている。
 

海水浴場開設中止で監視員不在の場合も

「遊泳危険」と記した県の張り紙=徳島市の小松海岸

 警察庁が公表している「水難の概況」は「過去5年間の夏期における水難発生状況をみると、発生件数、水難者数とも16年を境に減少していたが、今年は増加に転じた」とまとめている。
 徳島県内では、海水浴場が開設されていない小松海岸(徳島市)で泳いでいた男子高校生の死亡事故を含む12件が発生し、6人が亡くなった。

 警察庁は水難事故の防止対策として

  1. ▼開設されていない海水浴場では監視員の存在を確認する
  2. ▼子ども1人では水遊びをさせない
  3. ▼幼児や泳げない学童には必ずライフジャケットを着用させ、保護者らが付き添い目を離さないようにする

 などを挙げ、注意を呼び掛けている。
 

 コロナ対策で水泳の授業中止 安全学習の機会を

授業で水中での浮かび方を学ぶ児童=2019年7月、東みよし町

 因果関係ははっきりしないものの、事故増加の背景には、全国的に学校での水泳授業や海水浴場開設の中止などが相次ぎ、子どもたちが泳ぎ方や水辺の危険性について学ぶ機会が減ったことが要因との見方がある。

 さらに川や用水路など身近な場所で子どもの水難事故が増えていることから、公益財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団や日本赤十字社など6団体は、事故への備えを学ぶ「水辺の安全学習アプリ」を開発した。海や川、ため池・用水路での危険箇所や対処法、水の事故の実態、ライフジャケットの着用方法などを知ることができる。
 

左)日赤などが開発した水辺の安全学習アプリ
右)イラスト付きで詳しく解説している

 具体的には

  1. ▼用水路にはフェンスがないことが多く、幅1メートル、深さ0.4メートルもなくても、転んではまってしまうと水を飲んで溺れる
  2. ▼防波堤の近くは水の流れが複雑で、深い場所ができる場合もある
  3. ▼波が海岸を削らないよう設置されている波消しブロックには強い力がかかり、隙間が開いているため中に落ちる危険がある
  4. ▼水難者を見つけた場合は二次災害を避けるため、水に入らず浮く物を投げる

 などと細かく解説している。
 

アプリの説明をする松井教授=鳴門市の鳴門教育大

 アプリの総合監修を担当した鳴門教育大大学院の松井敦典教授によると、指導要領の改訂によって20年度から小学校の水泳授業に「安全確保につながる運動」を導入。昨年11月に香川県坂出市沖で小学生らが海に投げ出された旅客船沈没事故では、児童がプールでの徹底した指導やカヌー活動、直前に防災訓練を受けていたことなどでパニックにならず助かったと言われているという。「事故や災害は万人に起こる可能性があり、備えは必要不可欠だ」と強調する。
 
 しかし残念なことに、昨年度は新型コロナ感染防止のため、水泳授業の代わりに他の教科の授業を行った学校があったという。松井教授は「子どもたちに知識があれば、何かあったときに自分で切り抜けられ、溺れている人を助けることもできる。プールができなくても、教室での座学で水の安全について学び、夏の事故を減らしてほしい」と呼び掛けた。
 

事故に遭ったらどうしたらいい?

赤十字水上安全法指導員の資格を持つ河野さん=徳島市の日本赤十字社県支部

 実際に水難事故に遭った場合、どう対応すればいいのか。日本赤十字社徳島県支部主催の水上安全法を学ぶ講習で30年以上児童らを指導している河野光明さん(66)に、具体的に教えてもらった。
 

水着を着ている時よりも多い日常の水難事故

空のペットボトルを抱える児童=2019年、北島北小(日本赤十字社県支部提供)

 水難事故は、普段の生活の中で服を着たまま滑るなどして起きることが多い。服を着た状態で水に落ちた場合は、あおむけに浮いて待つ「浮き身」で対処するのが一般的だ。「腰を引いたら沈んでしまうので、真上を向いてお腹を出す。力を抜いて手足を広げると浮きやすい。万が一、体全体が浮かなくても首さえ水面から出ていれば呼吸できる」と河野さん。
 さらに気を付けたい点として「声を出すと肺の空気が抜け、暴れると数十秒で力が尽きる。足の付く浅い場所でも体がコントロールできず、溺れてしまう」と指摘する。
 

むやみに助けに行かない ビニール袋やバッグを浮具に

ビニール袋を使って浮かぶ児童=2019年、北島北小(日本赤十字社県支部提供)

 溺れている人を見つけた際は、助けに行った人が被害に遭わないのが鉄則だ。「二次災害につながるようなことは絶対にしないで」と河野さんは話す。水難者がいた場合、まずは119番するのが重要だという。ペットボトルやレジ袋、ランドセルなど浮具になる物を投げ、大人を呼ぶなどの対応を取りたい。
 救助時のポイントとして

  1. ▼レジ袋やペットボトルには水を少し入れて重しにする方が投げやすい
  2. ▼膨らんだレジ袋を服の中に入れれば、両手が空く上に浮きやすい

 とアドバイスする。
 その上で「危ない所に行かず、ルールを守る。体調が悪いときは無理に遊ばず、自分の身は自分で守れるようにしてほしい」と話した。


 日常生活の中で油断すると遭遇する恐れのある水難事故。安全で楽しい夏を過ごせるよう、家庭や学校で水辺の危険に関する知識を学び、しっかり身に付けてほしい。
 
過去に県支部が開いた講習の様子はこちら⇩
”もし服を着たまま溺れたら?松茂町の喜来小児童が「着衣泳」体験”
https://youtu.be/OJRdOCGeY7c