約100年前、鳴門市大麻町桧に第1次世界大戦(1914~18)で捕虜になったドイツ兵を受け入れた板東俘虜(ふりょ)収容所があった。現在は敷地の一部がドイツ村公園になり、住民たちが憩う。
収容所の入り口を模したアーチをくぐると、大きなセンダンが頭上を覆い、のどかな光景が広がる。足元に見える古いレンガ積みは、「バラッケ」と呼ばれた兵舎の土台跡で、当時の状況を示す数少ない遺構だ。
板東俘虜収容所は17年4月、四国の3収容所を統合し新設された。20年4月に閉鎖されるまで約千名の捕虜が生活。松江豊寿(とよひさ)所長の人道的な運営で知られ、さまざまな活動が行われた。
98年6月1日には、アジアで初めてべートーベンの第九交響曲が披露された。文化遺産として鳴門市民らが歌い継ぎ、初演から100年目となった2018年6月1日、ドイツ村公園に近いドイツ館前で初演が再現された。
収容所は閉鎖後、旧日本陸軍の宿舎として使われ、太平戦争後は海外からの引き揚げ者の寮として利用された。今では静寂に包まれる公園だが、目をつむり耳をすませばドイツ兵たちのにぎわいが聞こえてきそうな気持ちにさせられる。