柄にもなくと言えば失礼か。身長191センチ、体重169キロの大男が、明らかに緊張していた。それでも、よどみなく述べた口上は短くも情にあふれ、秀逸だった

 「親方の教えを守り、力士の手本となるように、稽古に精進します」。ほかならぬ、大相撲で大関に昇進した栃ノ心関(30)である。昇進伝達式での口上に<親方>を盛り込むのは異例だという

 17歳で東欧のジョージアから来日。言葉に悩み夜ごと泣いている姿を見かね、師匠の春日野親方(元関脇栃乃和歌)は日本語に堪能な同郷の人を探し出した。大けがで長期休場し、相撲を諦めかけた時がある。親方は「あと10年」「40歳まで」と親身になって励まし続けた

 「親方が少しでも喜んでくれると、うれしい。ゼロから教えてくれたから」。師弟愛が美しい。大学アメリカンフットボールでの指導者と選手の理不尽な関係に眉根を寄せていただけに、なおさら胸に染み入る

 栃ノ心関に入れ込んでしまうのは、出身国の関係も大きい。ジョージアは来年日本で開かれるラグビーのワールドカップで、徳島県が事前キャンプ地にとラブコールを送っている国

 首尾よく実現したなら、栃ノ心関にチームの激励に来てもらえないものか。母国では大関昇進を大統領が祝福した大スターである。選手はきっと喜ぶ。県民も、親方のように。