地域での起業や人材育成を支援する「まちしごとファクトリー」(徳島大、徳島県信用保証協会、徳島新聞社主催)のキックオフセミナーが6月19日、オンラインで開かれた。障害者がコーヒー抽出士(バリスタ)などとして活躍するカフェを併設した福祉施設を都内で運営する徳島市出身の坂野拓海さん(一般社団法人ビーンズ代表理事)の講演や、県内起業者3組による活動紹介を通して事業立ち上げのヒントを探った。当日の模様を紹介する。

 

障害者が働くカフェ併設の福祉施設運営・坂野拓海さん(徳島市出身)

 

講演要旨・誰かのための起業で豊かに

 千代田区と共に3年前に設立した福祉施設「ソーシャルグッドロースターズ」を運営している。障害のある人が焙煎(ばいせん)士やバリスタとして働き、仕事に誇りを持っている。障害の有無にかかわらず、コーヒーを介して出会った人たちが対等に過ごすことができ、日常的にダイバーシティ(多様性)を感じられる空間にしたいと思っている。その雰囲気に引かれて訪れる外国人の利用者も多い。

 コーヒーと福祉の組み合わせが生む価値は、おいしいコーヒーを提供してお客さんに喜んでもらうだけではない。得た利益を誰かのために使う。原料のコーヒー豆は、貧困に苦しむ原産国から適切な価格で購入。災害の被災地、コロナ禍の医療機関や福祉施設などに収益の一部を寄付した。支援される側というイメージの強い福祉施設が、支援する側に変わるという逆転が面白い。「福祉施設はこうだ」という社会のイメージを変えられる。

 ソーシャルグッドロースターズが目指すのは、人間性と生産性の両立。「こうありたい」という人間性の部分と、給料を払って事業を拡大するという両者のバランスが大切。生産性だけを重視すると歯車のように働くことになり、人間性だけでは成長や発展がない。この両立を実現するための挑戦の一つとして、大手コーヒーチェーンの人事評価制度を参考に、能力や経験に応じてキャリアアップできる仕組みをつくろうとしている。

 施設で使う焙煎機にも特徴がある。焙煎士の世界大会で使われているのと同じ最高級機種で、一般の店にはない。「その気になればいつでも大会に出られる」という可能性を込めた。そういった環境を整えることは、福祉施設に足りなかった夢や希望を表している。味だけでなく商品パッケージにもこだわり、自信を持って提供できる価値をみんなでつくっている。

 会社設立は2016年。社会人4年目に障害者採用に携わり、その後に始めた障害者の外出支援ボランティアの活動を母体に立ち上げた。行動のきっかけは、当事者やその家族との会話。就職先や住居といった将来への不安を何度も聞くうちに、「それならつくりましょう」とボランティアの枠を踏み出した。現在は千代田区と渋谷区を中心に、就労支援や住居の提供などに取り組んでいる。

 ビーンズが目指しているのは「人間性の豊かさ」という概念を社会に広め、さらにその豊かさを生み出せる人を増やし、多くの人がより良く生きられる社会をつくること。物質的、精神的な豊かさに加え、誰かのために役立つ喜びがあって初めて、人間として豊かになれるのではないか。誰かのために行動することによって、自分自身も地域の人も豊かになっていくと考えている。

「まちしごと」のポイント・周囲と話し、共感と協力広がる

 自らの経験を基に考えた「まちしごと」を行うときのポイントを紹介する。

 事業を始める際に大切なのは「誰のためにやるのか」。これは情報を集めたり誰かに話を聞いたりする中で見つかる。統計調査の活用とヒアリングが有効。人口統計や産業動向調査は、その地域の状況が分かって事業のヒントにつながる。また、身近な疑問を周囲の人や知識のある人に投げ掛けると、地域の課題がはっきりしてくる。その課題解決に取り組むことが自分にとってしっくりきたとき、起業の糸口になる。

 次はどのように事業を形にするか。徳島や地方では人材や資源を得にくいと思われがちだが、そうではない。形にしたい事業が社会に必要とされることなら、共感する人は世界中にいる。人に会って話したりSNS(会員制交流サイト)で発信したりすれば、やりがいや地方の魅力を感じて協力してくれる人が現れるはずだ。活動はローカルでも、東京や都会の人を巻き込むことは可能だ。

 事業を拡大させるには、自分のやりたいことではなく、人のために自分は何ができるかが重要。ソーシャルグッドロースターズを始めたのは、障害者やその家族の思いに「何とかしなければ」と思ったのがきっかけだった。コーヒーを通して誰のどんな課題に貢献できるのかという大義名分を伝えると、協力者が次々に現れてくる。課題への共感が仲間を増やしていく。

 誰かにとっての価値になるというのが大事。いろんな人と話をしてほしい。事業への思いを自分の中だけで完結させず、いろんな人に語ってほしい。話せば話すほど、共感と協力が広がっていく。人の思いが積み重なると、自分のためにやるのとは違って、事業継続の原動力になる。周囲の人とたくさん話をして、少しずつ輪を広げていくのが事業実現への近道だと思う。

 さかの・たくみ コンサルティング企業の人事として障害者採用に携り、障害者の外出支援ボランティア等の活動を経て2016年に福祉施設を運営する一般社団法人ビーンズを設立。現在は都内で保育や就労支援を行う6施設を展開する。20年にはカフェ併設の福祉施設「ソーシャルグッドロースターズ千代田」がグッドデザイン賞を受賞した。徳島市出身。

 

農業支援へ集荷場を運営 政平安世さん(徳島市)

 

 将来に向けて、徳島の豊かな農業を守り育てるためのプロジェクトに取り組んでいる。いくつもある農業の困り事の中で、解決を目指しているのは流通の課題と所得向上。農産物の販売、リパック作業、集荷場運営をメイン事業に据えている。営業による販路確保や袋詰め作業の代行、送料軽減などで農家の負担を減らし、おいしい野菜作りに専念してもらう。流通のほかにも高齢化や地産地消、6次産業化など克服すべき課題がたくさんある。購入者、農家、地域の人たちに貢献できる仕組みを作り、農業の未来を切り開く人の輪を広げていきたい。

まさひら・やすよ 土木資材メーカーを退職後、2020年6月に会社設立、11月に通販サイト「土のはぐくみ」を始めた。「幸せな人が届ける幸せな野菜」をコンセプトに、県内の小規模農家と連携し、販路の確保と、販路に合わせたリパック(包装・詰め替え)作業を請け負う。21年2月から集荷場の運営を開始した。とくしま創生アワード2020プランII部門グランプリ。徳島市出身。

 

協力隊しながら店舗営む 岡﨑裕樹さん

 

 阿南市加茂谷地区で地域おこし協力隊をしながら週に2日、「カモ谷製作舎」という店を営んでいる。納屋を活用した店舗で、地域の歴史にちなんだ商品開発をしたり、テストマーケティングの場所を提供したりもしている。協力隊としては、四国で初めてとなる介護保険制度を活用した高齢者の移送支援サービスの運用に事務局として携わっている。大阪府のモデルを参考に、修正しながら地元の人たちと一緒に進めている。地域の活動で難しいのは収益化。継続的な取り組みにするために収入を確保しながら、さらに地域のために取り組んでいきたい。

おかざき・ゆうき バリスタのアルバイトを機にコーヒーにのめり込み、生豆問屋、国内最大の焙煎機メーカーに勤務。コーヒー業界に14年間携わった後、コーヒーを通した社会貢献活動に取り組もうと、2020年2月に阿南市へ移住。同年4月に加茂谷地区の地域おこし協力隊に着任し、11月にスペシャルティコーヒー専門の自家焙煎と手作り衣料の店「カモ谷製作舎」を開業。松茂町出身。

 

地域と関わり盛り上げへ ODOROKI珈琲

 

 活動を始めたのは、新型コロナウイルスの感染拡大で対面授業のない日々が続いたから。遠隔授業ばかりで、意識的に外に出て関わろうとしないと交流の機会がない。「このまま卒業して、まちづくりを学んだと言えるのか」という思いから、コーヒーできっかけをつくることにした。店名には交流から生まれる驚きと、徳島を面白くしたいとの思いを込めた。県内全域のいろんな場所で出店する。まちづくりを学ぶ中で、実際に地域の人と関わりたい。徳島への情熱を多くの人と語る中で、その思いをより強めていき、今後どのように徳島を盛り上げていけるかを探りたい。

ODOROKI珈琲 鈴木優太郎(すずき・ゆうたろう、徳島市出身=写真右)と田村駿(たむら・しゅん、東みよし町出身=同左)の徳島大総合科学部2年生2人が、2020年3月から運営するコーヒースタンド。徳島市や鳴門市、三好市など県内各地で活動している。