正法寺川公園に立つ橋本夢道の句碑=藍住町奥野

 徳島県藍住町出身の自由律俳人・橋本夢道は獄中句〈うごけば寒い〉をはじめ、〈十万の下駄の歯音や阿波おどり〉〈蜜豆をギリシャの神は知らざりき〉などが有名だ。県内には鳴門公園(鳴門市)に〈母の渦子の渦鳴門故郷の渦〉、正法寺川公園(藍住町)に〈花茨(はないばら)釣れてくる鮒(ふな)のまなこの美しき〉の句碑が立つ。

 今回は、名もなき庶民の暮らしと死を見つめた「窪田君の死ぬ前」と題する一連を紹介したい。窪田君は夢道が長く暮らした東京の下町・月島の隣人だ。〈死ぬ前人の悪口言わず古い友だちがたずねて来た〉〈死ぬ前いつもだまりこんで働いて工場にいた〉〈死ぬ前妻子にとんかつ一つ食わせてやれぬと言った〉-。妻と子を残し、病に倒れた隣人への鎮魂歌である。

 夢道の娘婿・殿岡駿星さん(元全国紙記者)によると、窪田さんの奥さんは夫を亡くした後、月島の路地裏で駄菓子屋を始めた。店の中に一枚の鉄板を置き、近所の子どもたちにもんじゃを焼いてあげた。それが流行し、現在、月島西仲通りが「もんじゃ通り」となる出発点となったという。

 夢道の評伝は、殿岡さんの著書『橋本夢道物語 妻よおまえはなぜこんなに可愛いんだろうね』『橋本夢道の獄中句・戦中日記 大戦起るこの日のために獄をたまわる』がある。ぜひ、一読を勧めたい。

〈2021・7・15〉