若いころから、こんなことを考えていたという。「棺おけに入るときに人生良かったと思えるように生きたい」と
昨年12月、いわゆる生前葬で話題になった安崎暁さんの死生観である。建設機械大手コマツの元社長というより、東京徳島県人会の元会長、古里に心を砕き続けたとの印象が強い。末期がんを患い、残された時間はそう長くない。一人一人に「ありがとうと言って別れたい」。そんな「感謝の会」を開く―
その知らせを飲み込めずにいたのは筆者だけではなかった。「元気の塊だと言われてきたから、みんなびっくりしていた」と安崎さん。「80歳だからね。悲しくない。寿命がきたかどうかは分からないけどね」
会場には、終戦直後の少年期を過ごした吉野川市からも、共に学んだ、恩を受けた、師と慕う人たちが駆け付けた。湿っぽい会にはしたくないと話していた通り、舞台での阿波踊りには輪もできた
いつ死が訪れるか、誰にも予測ができない。しかし、生きている人間はいつか確実に死を迎える。だからこそ、よりよく生きなければ。よりよく生きたい、と思う
「私の人生で巡り会った人に感謝を伝え、握手できたことに満足している」と語っていた安崎さんが逝った。人は一人では生きられない。誰かに支えられて生きている。そうも伝えたかったに違いない。