車はなければ、もちろん信号もない。鳥のさえずりが聞こえ、潮風が心地よい。徳島県内の離島が近年のイベントなどを通して注目を集めている。牟岐町の出羽島と阿南市の伊島。豊かな自然や歴史にあふれ、昔懐かしい情景が今も残る。のどかな空間が、時間に追われる人たちの心を癒やしているようだ。
 

 

 出羽島(牟岐) 重伝建選定で注目

 牟岐漁港から連絡船に乗り15分で着く。周囲は約4キロで人口は約70人。

 島の知名度が高まったのが、2013年から4年間催した「出羽島アート展」だ。空き家などで県内外の芸術家が作品を展示したりワークショップを開いたりして人気を集めた。

 

荷物を運ぶ手押し車が置かれ昔ながらの町並みが残る


 17年2月には、古い漁師町の姿を残す集落が国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定された。昨年9月から今年3月までJR四国ワープ高松支店が月1回、高松駅発着の散策ツアーを企画。毎回20人前後が参加し好評だった。

特産のテングサが収穫期を迎えている

 4月中旬にJR四国の出羽島ウオークがあり、参加した西岡由衣さん(26)=徳島市中吉野町4=は「海がきれいで、ゆったりとした雰囲気がいい。ひとときの開放感を味わうことができた」と話した。

 島西側には、1億4千万年前に繁殖した藻類「シラタマモ」が国内で唯一生息する大池があり、国指定天然記念物になっている。今の時季は特産のテングサの収穫が盛んだ。

 こうした環境に引かれて移住する人も。かばんを製造する工房が開業されたり、ゲストハウスが開設されたりしている。16年11月に静岡県から移住した高橋華蓮さん(38)は友人のフェイスブックにあった出羽島の写真をたまたま見て「きれいやなあ」と思い立つ。「自然や人の温かさなど、日本からどんどんなくなっているものが、ここにはある」と言う。

 

 

 

   伊島(阿南)ササユリ見頃

 阿南市の蒲生田岬の沖合約6キロに位置し、同市津乃峰町の答島港から連絡船で30分。周囲は約9・5キロで約150人が住む。

 島の固有種・イシマササユリが有名で、開花の時期は例年5月下旬から6月上旬。岡山県や和歌山県などの県外から訪れる人もいるという。

 14年に徳島市出身の写真家・三好和義さんの写真の展示などを中心とした「伊島芸術祭」を開き、大勢の人が詰め掛けた。15年と17年はササユリの開花時期に合わせた「ささゆり祭り」を開いた。17年度の連絡船の乗船客数は1万7742人に上り、16年度を2千人以上も上回った。
 

環境省の重要湿地500に選ばれた湿地


 環境省の「重要湿地500」に選ばれている湿地や、太平洋の絶景が見渡せる「カベヘラ」も見どころだ。

 県内の離島で唯一の学校もある。伊島小学校と中学校は、芝生の運動場が印象的で、両校の校舎が並ぶ雰囲気は郷愁を誘う。

 児童数は5人、生徒数は6人。過疎地での休廃校が相次ぐ中、存続しているのは若い世代がいるためだ。市は17年度、若者定住促進住宅を建設し、5戸のうち4世帯が入居している。

 住民でつくる伊島町会の神野範雄会長は「近くササユリが見頃を迎える。ぜひ島を訪れ魅力を感じてほしい」と話している。
 

のどかな雰囲気が漂う伊島の集落と漁港