上板町を拠点に藍の栽培から染色、仕上げまでを一貫して手掛ける藍師・染師のグループ「BUAISOU(ブアイソウ)」。創造性あふれる活動が国内外に広がる彼らだからこそ、新型コロナウイルス感染拡大の影響は小さくなかった。海外でのワークショップは相次いでキャンセルとなり、上板の工房での藍染体験も受け入れ中止を余儀なくされた。それでも、「これまで以上に作品と向き合う時間が増えた」と、この試練を前向きに捉える。彼らは創作活動に手応えを感じながら、藍作家としての次なる一歩を踏み出した。

 

 BUAISOUの工房の一室には、約30台のミシンが所狭しと並ぶ。全て米国からの輸入品で、ほとんどが戦前に作られたビンテージ製品だ。ポケットを縫うもの、ベルトを縫うもの。一台一台の用途が異なる。これらのミシンを用いて、糸の染色から縫製までを自分たちで仕上げるジーンズ作りに乗り出す。

ベルト通しひもを作るための2本針ミシン。約70年前の機械

 BUAISOUの名称は、日本で初めてジーンズを履いたとされる実業家・白洲次郎の邸宅「武相荘」にちなむ。それほど、彼らのジーンズへの思い入れは強い。既に縫製を外注する形で製品化をしているが、代表の楮覚郎(かじ・かくお)さん(32)は「できる限り多くの作業に携わりたかった」と話す。

ジーンズ制作のために藍で染めた糸

 ミシンが置かれた部屋はこれまで藍粉成しに使われていた。縫製スペースの確保のため、新たにハウスを作って藍粉成しの作業場を移転。ジーンズ作りに並々ならぬ意欲を見せる。

 「ここにあるミシンは船便で海を渡ってやって来た。ワクワクしながら小松島港まで受け取りに行きました」。ミシンを見詰める楮さんの表情に、子どもが大切なおもちゃを手にしたような笑みが浮かぶ。

 「ジーンズはかつて炭鉱労働者の作業着として天然藍で染められ、農家やカウボーイにも愛された。肉体労働が多い自分たちにとって、その風景が理想のように感じるんです」

 新作ジーンズの完成時期は未定だが、BUAISOUにとって記念碑的な作品となることは間違いない。

 コロナによる長時間の「工房ごもり」は、彼らの技術を向上させた。この間の大仕事として挙げるのが、東京都の百貨店・松屋銀座での展示だ。1月に吹き抜けやショーウインドーに藍作品を展示したところ評判を呼び、6月からは縦19㍍、横45㌢の生地39枚を使った巨大な藍染のれんが飾られた。日本を代表するグラフィックデザイナーの佐藤卓さんがデザインを手掛け、「ろうけつ染め」で2匹のコイを描いた。

松屋銀座・夏の巨大のれん(BUAISOU提供)

 BUAISOUとしては過去最大級の作品で、天井に滑車をかけ、生地をつるしながら染め抜くなど新しい技法も取り入れた。楮さんは「ろうけつ染め、巨大、グラデーション。この3要素をこなすのが困難だった」と振り返りつつ、「巨大作品と格闘する中で、技術も仕事を仕上げるスピードも磨かれていったと思う」と自信を深める。

松屋銀座のろうけつ染めの作業風景

 さらに松屋銀座に新作を飾るため、ろうけつ染めで人気ゲーム「ポケットモンスター」のキャラクター「ポッチャマ」をかたどったのれんを制作中だ。「ポケモンを染める依頼が来て、最初は驚きました。でも、先方の熱意が伝わり、ありがたかった」。楮さんらメンバーは真剣な表情で一枚一枚、かわいらしい「ポッチャマ」を染める作業に取り組んでいる。

 さまざまな分野とのコラボレーションで活躍の幅を広げるBUAISOUだが、地元文化への真摯(しんし)なまなざしは変わらない。彼らが生み出す色のグラデーションを示す「色見本帳」の一つには、那賀町に伝わる古代布「太布」を使っている。手に取る人は藍の濃淡の多様さに驚きながら、徳島で受け継がれてきた布に知らず知らず触れることになる。

 「藍染が当たり前にあった時代の布を、徳島で継承している人がいる。藍の染まりがよく、見本帳に最適だった」と楮さん。ただ、古い布だから、伝統を守りたいから使っているわけではない。「本当に良いものだから使いたくなるんです」と品質そのものをたたえる。

 

 NHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」で藍に注目が集まる中、BUAISOUの藍葉もドラマの撮影に使われた。過去にイギリスで飾られた藍染の旗が、現地でマスクとして再利用されるなど、コロナ下ならではの話題もあった。

イギリスで飾られた旗が再利用されたマスク

 コロナでさまざまな制約を受けながらも順調に活動を続ける彼らだが、「今のままでは埋もれてしまうのでは」との危機感も抱く。

 「国内外で藍への関心が高まり、藍作から藍染までをこなす人が増えている。今後、自分たちは珍しくない存在になるかもしれない」という理由からだ。

 コロナの感染拡大以降も、創作活動では充実した時間を過ごせている。しかし半年後、1年後に何をしているかは、彼ら自身にも分からない。「いかに現状にとどまらず、変わり続ける存在でいられるか。常に立ち位置を確認しながら、前進していきたい」。藍文化を発信するフロントランナーとして、藍と向き合う日々は続く。

BUAISOUのメンバー